第13話「悪役貴族、黒幕を見つける」
ゲームのピオナというキャラクター。
彼女のことを端的に言い表すなら、幸薄系ヒロインとでも言うべきだろうか。
早くに親を亡くし、奴隷商に買われ、酷い虐待を受けていた。
そこを通りがかった主人公に助けられるという筋書きだ。
ただ、ピオナの登場シーンはそう多くない。ゲーム内の扱いも含めて不遇なヒロインなのである。
アルバルゴはーーアルバルゴの中にいる彼は、結構好きだったのだが。
そういえば、ゲーム上のピオナは呪術への適性が高かったことをアルバルゴは思い出した。
呪術師も、それを見越してピオナを買い取ったのだろう。
触媒にでもするつもりだったのか、あるいはもう使ったのか。
乱暴に引きちぎられたと思しき髪の毛をちらりと見ながら、アルバルゴは顔をしかめる。
前世で父親に髪を掴まれたのを思い出して、気持ちが暗くなった。
「うーん、よし、決めた」
「え?」
「僕が君を助ける」
助けたいと思った。
それは、ピオナが『オラクル・ワールド』のヒロインだからとかじゃない。
ピオナが、昔の自分に少しだけ似ていると感じたから。
すべての危険におびえて震える、臆病な女の子を助けたいと思ったからだ。
「さて、そろそろ殺るか」
「ひっ」
ただしもちろん、僕なりのやり方で。
牢屋にはもちろんのことだが牢屋番がいる。
彼には、人を呼びに行ってもらった。彼はしきりに「駆けつけるのが遅れて申し訳ありません」と謝っていたが、それは不問にした。
故意ではなく、過失。
あるいは死んでくれれば儲け物と思って何もしなかったのかもしれないが、それならそれでいい。
牢屋番に責任を求めるつもりは毛頭なかった。
アルバルゴは、視線に気づく。
ピオナがじっとこちらを見ていた。
「あの、貴方は?」
「僕は、アルバルゴ・サトゥーゴ。サトゥーゴ公爵家の当主だよ」
「こ、公爵様ですか?も、申し訳ありません!そうとは知らずにご無礼を、申し訳ありません!申し訳ありません!」
「ええと、別に気にしてないから大丈夫。楽にして」
「は、はい?よろしいんですか?い、いえ別にアルバルゴ様の言葉を否定したいわけではないのですが……」
そういえば、ピオナはこういう性格だったなとアルバルゴ思い出す。
ひたすらに卑屈で自信がない。
境遇を考えれば当然ではあるが。
「君は、呪術師の奴隷?」
「は、はいそうでした。でも最近は違います。血を抜かれたり、髪を抜かれたり、悲鳴を集めたりされてないので……」
「そんなことまでされてたのか……」
ピオナの年齢はいくつだっただろうか。
アルバルゴより下なのは間違いないが。
そんな子供を苦しめて搾取する呪術師。
やはり殺しておいて正解だったな。
牢屋番は、一人の男と一緒に戻ってきた。
燕尾服を着た初老の男性。
「やあ、執事長」
「アルバルゴ様。これは?」
執事長は顔を真っ青にして、牢の中を見た。
まあ確かに死体が二つもあれば気分が悪くなって当然だろう。
ましてや想定外の結果だっただろうし。
「うーん、気にしなくていいよ。もう終わったことだし」
「……そういう問題では」
「それに、君の考えもわかったしね」
「はい?」
「え?」
ピオナは何を言っているのか意味がわからず目を白黒させていた。
執事長は、その逆。
表情こそ変わっていないが動揺して、首筋から汗を流していた。つまりアルバルゴの言葉の意味を理解していた。
「君でしょ?彼らを焚きつけたのは。ああ、わかってるんだよ。この子に訊いたから」
「僕を殺させるつもりで、この奴隷たちに情報を与えたんでしょ?顔は知らなかったようだから、呪術師が殺されたことと、殺したのが当主の息子で父親を殺して当主の座に収まったことだけ教えたのかな?」
「…………」
執事長が答えない。そしてこの場での沈黙は肯定と同義だった。
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