第12話「悪役貴族、ヒロインに出会う」
華奢な少女だった。
大きな瞳と、癖のついたぼさぼさの紫色の髪。
やせすぎて、むしろ骨ばっているとさえいえる体。
顔が煤けているが、汚れを落とせば十分に美少女の部類ではないだろうか。
怯えている。だが、敵意はない。まあ、殺人鬼に対して敵意や憎悪を向ける方が稀だ。
敵対する気がないなら放置してもいいのだが……妙な感覚だな。
どこかで見たような気がする。
「君は、僕が憎くないのか?」
「え?」
「ひっ」
「あの」
「うん?」
「殺さないでください、痛くしないでください、許してください」
がたがたと、震えている。
ふと気づいた。
彼女の体には無数の傷跡がある。
もしかすると、他の奴隷とは扱いが違うのかもしれない。
大男と小男の二人は粗末な服こそ着ていたが、虐待されていたような様子はなかった。
もしかすると、この少女は何か違うのかもしれない。
「君、魅了の呪いにかかってないのか?」「え、あ、はい。私、呪いが効きにくい体質みたいで……」
「ふーん」
なるほどな、とアルバルゴは納得する。
確かに呪いもそうだが魔法は人によって効果が違う。
毒や薬が人によっては効きにくいのと同じだ。
そして、この少女にはとにもかくにも呪いが効きづらいがゆえに虐待を受けていたということか。
極論だが、魅了の呪いはあくまでも奴隷を従える手段の一つに過ぎない。
それが通じなければ薬物でも暴力による屈服であっても、何かしら別の手段をとるし、呪術師は取ったのだろう。
「ひとつ言っておくが、僕は君を殺したり傷つけるつもりはない」
「え?」
少女は、信じられないという顔をした。
まあ、殺人鬼が「殺さない」などと言っても信じられるわけがないか。
「僕は、敵対した相手はすべて殺す。僕を殺そうとしてきた人間は全員殺す。でも、君は敵じゃないから」
「は、はあ」
彼女は、魅了にかかっていないし、呪術師や公爵家に愛情があるようにも見えない。
つまり、アルバルゴの敵になる理由はなく、アルバルゴが少女を殺す理由もない。
「あの、わ、私はその、どうしたら」
「まあ、別にどうもしないよ。俺が君を買い取って自由にしてもいいし」
侯爵家の当主なのだ。それくらいの資産はある。
「じ、自由!あれでもそれって、何の意味が?」
「まあ、特に意味があるわけじゃないけど。しいていうなら子供にはなるべく優しくしたいってのは本音かな」
もちろん殺そうとしてきたら殺すけど、というつぶやきは心中にとどめた。
押し黙っているアルバルゴを、少女は珍しいものを見るかのような目つきで見ていた。
「君、名前は?」
「あ、私は、その、ピオナといいます」
「ピオナ……?」
思い出した。彼女は、「オラクル・ワールド」の登場人物、攻略対象の一人だ。
オラクルワールドは、主人公がバトルをしてマップを開拓しつつヒロインを攻略するというのが大筋になっている。そして、攻略対象の一人がこのピオナである。
「オラクルワールド」で見たのと比べると随分と痩せていて、体格も一回り小さいからわからなかった。
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