第11話「悪役貴族、奴隷を蹂躙する」

「ぎ、ぎっ」



 脂汗を流しながら、小男はうずくまる。

 関節があり得ない方に折れ曲がっている。

 神経に、致命的なダメージが走ったのだろうと、察することが出来る。



「さっき麻痺魔法をかけてきたのは君でしょ?あっちの子供は意識があるかも怪しいくらい弱ってるし、大男の魔法は接触が条件みたいだしね」

「な、なにを、がああああああああああああああああああああああっ!」



 アルバルゴはナイフを振るって右肘を突き刺す。

 的確に、右腕の神経だけを破壊していた。

 小男は、両肘から先の感覚を失ったことになる。

 激痛と不快感のあまり、全身から脂汗が噴き出てくる。



「僕はさ、敵を殺すのが好きなんだ。そして、可能な限りそれは報復として行いたいと思っている。わかりやすくいえば、目には目を歯には歯をってやつかな」



 ゆえに頭を爆破してきた大男に対しては頭部を粉砕して殺害した。

 さらに、小男にもまた麻痺魔法を使ってきた報復をする。

 具体的には両手足の神経を破壊して動けなくする。

 アルバルゴは解剖学に秀でているわけではないけど、自分の腕を触ったときに押すとじんわりと痺れる箇所があるのは知っている。

 ならばそこをナイフで刺し、神経を切断すればいい。



「じゃあ、次は足だね」

「ひっ」



 逃げようとするも、すべてが遅い。

 腕と違って触っても、どこがしびれるのか、神経の位置がよくわからない。

 まあ膝をたんねんに潰しておけば神経を傷つけることはできるだろうと判断する。

 膝の関節に刃を食い込ませ、再び関節が神経が、破壊される。

 ほどなくして、四肢の感覚を失い、小男は地面に這いつくばることになった。



「お前、ふざけるなよ」

「うん?」

「とぼけるな!そもそもお前がご主人様を殺したから俺達に報復されることになったんだろうが!」

「それさあ、誰に訊いたの?」

「誰って……」

「いや、僕が呪術師を――君たちの主を殺したって誰に訊いたの?教えてよ」

「な、何を馬鹿な」

「口とか喉を司る神経ってさ」



 相手の話をさえぎって、僕は語り始める。



「顔のあたりにあったりするんだって。そこをやられると、声が出せなくなったりするのかな」

「何を」

「手足なら、君の治癒魔法で治せると思うんだよね。でも、喉を潰されたらどうなるかな。詠唱できるのかな?治癒魔法は使えるのかな?」



 喉にナイフを突き解けたまま、アルバルゴは語る。

 結論から言えば不可能だ。

 詠唱なしに魔法を使える人間は存在しない。

 ゆえに魔法を使うものにとって喉を傷つけられることは、文字通りの致命傷となりえる。



「君は、ここを生き延びなきゃならないはずだよ。何しろ、ご主人様の仇である僕を殺さないといけないわけだからね」



 そんな言葉を、ナイフを突きつけたまま囁いた。

 小男は迷っていた。

 だが、ゆえに、彼自身の怒りより復讐を優先する。



「俺たちに情報を流したのは――」



 それは、からくり人形が設定された動きしかしないように、感情を廃したありかただった。


「ありがとう」



 その情報を聞くや否や、アルバルゴは、頸椎にナイフを振り下ろしてとどめを刺した。



「がっ」


 びくんと震えて、小男はそれきり動かなくなった。



『カウントが増加しました』

「さて、残るは」



 アルバルゴは、布にくるまった三人目を見た。

 彼女は、果たして彼の敵だろうか。

 あるいは……。

 びくり、と布が震える。



「ひうっ」



喉が鳴るような声を出して、ゆっくりと三人目が起き上がっていく。



「…………」

「女の子?」



 三人目の奴隷は。

 まだ12、3歳と思われる少女だった。

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