第9話「悪役貴族、奴隷と戦う」

 奴隷は、隷属の魔術によって管理されている。 

 より詳細に言えば、魅了の呪いであり、主人を価値観の最上において行動するようになる。

 主人が死ねと言えば死ぬし、殺せと言われれば誰でも殺す。

 あまりにも強力すぎるゆえに奴隷以外に使うことは固く禁じられている。



「そして、僕はその奴隷の主人を殺した」



 もちろん、あれは正当防衛だ。

 殺そうとしてきた、いや殺してきたから殺した。

 ただそれだけ。彼が前世の時からやってきたことでしかない。

 しかし、魅了されていた奴隷にしてみればどうか。



「そいつにとって、僕は間違いなく敵だろうね」



 アルバルゴは、敵を殺す。自分を殺そうとするものは、総て。

 それが、自分で定めた生き方だから。 

 だから敵がいるなら会って、確かめて、殺す。



「さて、どんな相手なんだろうね」

「こちらです」



 執事に案内されるがまま、アルバルゴは地下に降りる。サトゥーゴ家には、罪人を閉じ込めるための地下牢がある。

 執事長に案内されるがまま、アルバルゴは牢に入る。

 執事長は「失礼します」とだけ言って、鍵を閉めるとそそくさと出ていった。

 まああまり奴隷やアルバルゴと同じ空間にいたくなかったのだろう、とアルバルゴは推測し。

 改めて室内を見渡してみた。



 そこには、三人の奴隷がいた。がっちりした体格の大男と、逆に痩せ型の小男。 

 そして、床の上に横になっている、子供。



「やあ、はじめまして。僕はアルバルゴ・サトゥーゴ。サトゥーゴ家の新しい当主だよ」



 といっても、あまり彼らには関係ない話だけどね、と内心でアルバルゴは呟く。



「お前が、新しい公爵か?」

「うん、そうだけど」



 男の問いに、アルバルゴは肯定で返す。



「元の当主を殺してその座に就いたのか?」

「もちろんそうだよ」



 隠す意味もないため、正直に答える。



「護衛がいたが、殺したのか?」

「うん」

「そうか……」



 これにも素直にアルバルゴが答えると。

 大男はすっくと立ちあがり。



「お前が、主様を殺したのかあ!」



 そのまま、飛び掛かってきた。

 咄嗟に、アルバルゴは身体強化魔法を発動。

 腰に履いた剣を抜いて。

 つかみかかってきた大男の指を切り飛ばす。




「がああああああああああああああああ!」



 悲鳴を上げながらも、大男はそのまま突進してくる。魅了の呪術はかけられた本人が死ぬまでは消えない。 

 かけた側が死んだ後どうなるか、までは知らないが。

 生存本能より優先度が高いとは。



「少しかわいそうな気もするけどね」



 きっと魅了にかけられていなければ、ここまではしなかっただろう。

 主人の死を喜ぶ、かどうかはわからないが殺意のままに僕に飛び掛かってくる可能性はかなり低い。

 人間には理性があるし、リスクとリターンの天秤もある。

 ここで公爵であるアルバルゴを害すれば反逆罪が適応され極刑に処されるはずだし、それを考えればうかつにこの場で攻撃などできないはず。

 しかし、そういった理性を呪いによって塗りつぶされてしまっているのだ。

 とはいえ、この程度の相手であれば今のアルバルゴの敵ではない。

 呪いに理性を塗り潰された相手などどうとでもなる。

 余裕をもって大男の突進を回避、そして懐に入って脇を斬れば終わりだ。

 アルバルゴがそう判断し、実行しようとして。



「あれ?」



 体が、動かない。

 それどころか、感覚がない。ナイフが感覚のない指の隙間から零れ落ちて。

 大男が、指のない手でアルバルゴの頭部に触れる。

 直後、アルバルゴの頭部は破裂した。



 ◇◇◇


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