第8話「悪役貴族、当主の座に就く」

 父親や後妻、そしてその他諸々を処刑した翌日。

 僕は、屋敷にいる使用人を全員呼び出した。

 もちろん、父と後妻の死、そしてもう一つの用件を伝えるためだった。



「とりあえず、僕がサトゥーゴ家の当主になったから」

「え?」

「何か文句でもある?」

「い、いえ、滅相もございません!」

「それはよかった。じゃあ、これからは僕の下で働いてもらうってことで」

「……承知しました」



 実際、お互いにとって良かった。

 ここで何か文句の一つでも言われていたら、執事長の首は物理的に飛ばしていただろう。

 しかしそうはならなかったためアルバルゴは、父親に仕える彼等を殺さないことにした。

 別に、彼らは父や処刑人と違ってアルバルゴを殺そうとしたわけではない。

 ただ何もしなかっただけ。

 であれば、決して敵ではない。

 よってわざわざ殺す必要もない。

 アルバルゴ・サトゥーゴは、敵以外の人間を殺すつもりはないのだから。



「そういえば、奴隷の処遇をいかがしましょうか」

「奴隷?」



 もちろん奴隷自体は知っている。

 この世界には――『オラクルワールド』には奴隷制というシステムがあり、莫大な借金を抱えたものが返済のために身を売る借金奴隷と、犯罪者に対する刑罰としての犯罪奴隷がある。

 いずれも貴族や豪商に使い潰されるのが常だ。

 ゲーム上では主人公のパーティーメンバーにすることもできたはず。



「うち、奴隷使ってたっけ?」



 サトゥーゴ家は奴隷を保有していなかったはず。

 プライドか、あるいは法曹に関わるものとして手元に犯罪者を置いておきたくなかったのかはわからないが、父や後妻は奴隷を保有していなかったはず。



「いえ、例の呪術師が抱えていた奴隷です。なんでも、呪いの触媒などに使っていたようでして」

「うーん、元居た奴隷商のところに送り返すっていうのは?」

「そ、それも難しいかと思われます。何しろ、値段がつかないような低品質の奴隷らしく……」

「うーん、じゃあいっそ引き取る?いや、他人の奴隷って勝手に引き取っていいのかな?」「契約上、問題はないそうです」



 雇用契約時、何かあった時の財産の処分をサトゥーゴ家に任せる契約だったらしい。

 変な契約だなと思ったが、呪具や触媒などをさっさと破棄するために父が取り付けたものらしい。

 まあ、禍々しいものだから遠ざけたいというのはわかる。



「せっかくだし、一応見に行こうかな」

「アルバルゴ様が、ですか?」

「使用人の大半がやめちゃったからさ、人格に問題がなければ使用人として雇ってもいいかなって」



 使用人の大半は、退職を望んだ。

 別に去るものまで追うつもりはないので、父の金庫から私財を盗み出して退職金を支払ってやめてもらった。

 残ったのは、執事長含めて全体の三割ってところ。

 広大な屋敷を維持する補充しておきたい気持ちもあった。



「なるほど……」



 執事長は、何か複雑そうな表情を浮かべた。



「それに、気になることもあるしね」

「?」

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