第7話「悪役貴族、継母を殺す」

「え、あ、いやあああああああああああああああああああああああ!」



 一瞬何をされたのか理解できなかったタルラーは遅れて自分の腕の喪失を知覚し、絶叫する。



「あ、う、ひゅっ」



 マリアンヌは、ショックだったようで顔を白くして倒れてしまった。



「なにを、なにをするのお!」

「決めたとおりにするだけだよ」



 アルバルゴはそういいながら、左腕、左足、右足の順番にねじり、ちぎっていく。



「いやあああああああああああああああああああああ!」

「うるさいなあ」



 余程痛いのか、タルラーは絶叫する。

 とはいえ、彼にとってはどうでもいいことだ。

 むしろ、喜ばしいことですらある。

 タルラーは、アルバルゴに対する復讐として芋虫にしてから殺すと言った。

 つまり、それが彼女の思いつきうる限り、一番いやなことなのだ。

 だったら、その通りにしてあげようと思う。



「ねじりながらちぎったから、失血死することはないと思うぞ。さて、無様な姿になった感想を教えてもらおうか」

「ああ、いや、いや」



 手足を失ってうつ伏せに倒れこんだ状態で、タルラーはいやいやと首を横に振る。

 痛みや喪失感から逃避しているのかもしれなかった。



「意味ないけどな、そんなことしても」



 傷は、痛みは、決して消えることはない。

 首を斬られた時の喪失感を覚えている。心臓を貫かれた痛みを覚えている。

 何より記憶が統合される前、処刑宣告された時の、寂しさとやるせなさを覚えている。

 だから、傷つけるのだ。

 自分が受けた分の痛みを、敵にも与えなくては気が済まない。

 そうでなければ、心が死んでしまうから。



「さて、じゃあ。ばいばい、後妻殿」



 首を掴んで、ねじり。



「ぐべぅ」



 ひきちぎった。

 胴体の方から、夥しい量の血が噴き出す。

 アルバルゴの目には、それが新たな門出を祝うクラッカーのように見えたのだった。


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