第3話「悪役貴族、蹂躙する」


「汝の名はアルバルゴ。ここに串刺しの刑を執行ーー」



 真っ先に動いたのは、先程まで僕を拘束していた呪術師だった。藁人形を取り出し、釘を刺そうとする。相手は公爵家お抱えの優秀な呪術師だ。呪いをまともに喰らえば死ぬだろう。    

 アルバルゴが呪術師に殺されておらず拘束だけで済んでいたのは、偏に処刑が斬首によって行われなくてはならなかったからだ。

 それほどの力量を持った相手。

 ゆえに、アルバルゴは彼を殺すことを最優先した。

 剣を僕が投擲するのと、呪術師が藁人形に釘を差し込むのは同時。



「ごふっ」



 アルバルゴは心臓を、不可視の杭によって貫かれて。



「かっ」



 呪術師もまた、アルバルゴが投げた剣を頭部に喰らって即死していた。

 呪術師とアルバルゴの間には二十メートルほどの距離があったが身体強化の魔法を使えばどうということはない。

 かくして両者は相打ちになりーー片方だけが立ち上がる。



『カウントが増加しました』

『カウントが減少しました』

「さて、また残り一になっちゃったなあ」



アルバルゴは処刑人――従妹叔母が手にしていた斧を手に取る。

まだべっとりと僕自身の血がついていたが、振るうのに支障はないだろう。



「じゅ、呪術師!」

「そんなバカな!なんでまだ死んでない?」

「不死身、なのか?」



 アルバルゴは知っていた。先ほど彼が殺した呪術師こそがこの場で最も優秀であり父からも信頼されていたことを。

 彼が死ねば、公爵も、他の護衛も、少なからず動揺することを。

 故に、ここで詰ませに行く。

 身体強化魔法で向上した筋力をもって二十メートルの間合いを瞬時に詰め、斧を振るう。


「あっ」



一度目で、一人の護衛の首を刎ねた。

二度目で別の護衛の胴を薙ぎ、ついでにたまたま軌道上にあった三人目の頭部を砕いた。



「ぶぎゃっ」



 三度目で、残り三人をまとめて叩き潰した。あっさりと護衛を叩き潰したが、本来これこそが彼の、アルバルゴ・サトゥーゴというキャラクター・・・・・・の実力である。

 血と油でナマクラになった斧を放り捨てる。もはや武器すら必要ない。



「ひっ、ひいいいいいいいいいい!」

「化け物だあ!」



 処刑を見に来ていた観客がこぞって顔面を蒼白にしたまま逃げ出していく。

 石を投げた罵声を浴びせた連中も敵であり、当然殺さなくてはならないが、それはひとまずあとだ。

 物事には優先順位というものがあるし、誰よりも殺さなくてはならない存在は目の前でへたり込んでいる。

 この場にいる護衛は全て殺した。

 あとは身を守る鎧をなくした裸の王様を討つだけである。


「さあ、親殺しの時間だ」



 ◇◇◇


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