第2話「悪役貴族、復活する」

 首が落ちた次の瞬間、アルバルゴの脳内に流れ込んできたのは前世の記憶。

 現代日本で生まれ育ちながら、人と争い、命を奪う生き方をしてきたこと。

 そして同時にもう一つ、理解する。理解すると同時に。



「は?」



 処刑人は困惑していた。斧で首を断ち、命脈をだったはずの子供。

 それが、今目の前に立っているのだから。

 まして首が繋がった状態で。

 あり得ない。

 疑問と困惑が彼女の脳を支配しているのだろうが、程なくしてそれも終わる。

 疑問の種が割れたから、ではない。



「こぼっ」



 思考するどころではない状態にまで追い込んだからだ。



「どんな鎧であっても、構造上関節には隙ができる。膝の裏とか、脇とかな」



 アルバルゴは処刑人の女が腰に履いていた剣を抜き、彼女の脇を刺し貫いた。

 切れてはいけない、生命を維持するのに重要な血管が切断される。

 剣を引き抜くと夥しい量の血が吹き出して、処刑人は倒れた。

 それで終わりだった。



『カウントが増加しました』



 脳内に声が響く。

 アルバルゴは、自身の体の状態を改めて確認する。



「首はつながっている。おまけに体は呪いで動きを封じられていたはずだが、動ける、か」



 つまり呪いが消えている。

 呪いとは魔術の一種だ。例えば藁人形に相手の名前を書いた紙を入れて釘を打つと相手が傷つくなど、相手を指定して放たれるものが大半だ。

 一度死んだことでアルバルゴ・サトゥーゴから物言わぬ死体になる。

 つまりは名義が変わって呪いの対象ではなくなったことで解除されたのだろう。

 変化はまだある。

 左手の甲を見る。

 そこには『1』という数字が刻まれていた。


「そういうことかあ」



 アルバルゴは、自分に与えられた能力を改めて理解する。

 おそらく「人を殺すとカウントが増える」「死ぬとカウントを一つ消費して復活する」というものだろう。

 まるで、いやまさにゲームだ。

 残機の数はこうして左手を見れば確認ができる。

 まさに自分のためにあるような能力だと考える。

 すら持ち越してくれたのだから。それがなかったらあそこで終わっていた。



「な、何をしている、おい、殺せ!」



 父が何事か叫んでいる。

 父の傍にいたタルラーと、マリアンヌは顔面を蒼白にしている。

 父の護衛らしい人物が何事かいいながら、武器を構えている。

 まあ、どうでもいい。

 何を言っているのかとか、何を考えているのかとか、そんなことは重要でも何でもない。

 必要な情報は、こちらに武器を向けている者と、それを指示したものがいるということだけ。

 前世の記憶と今世の記憶。それらが、たった一つの結論を出す。



「敵だな、こいつら」


 ◇◇◇


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