第25話 妙な島 2
とりあえず気を取り直して、冴山さんとの取材を始めている。
役場で自転車を借りての散策中だ。
天気が良いので移動すら心地良い。
潮風に吹かれながら港に立ち寄ったり。
人里を離れて原っぱ地帯の獣道を駆け抜けたり。
冴山さんはイメージに反して自転車を軽快に漕いでいる。
僕も負けじとそのあとに続く。
「お……綺麗な砂浜」
やがて島の裏手で人っ子一人居ないプライベートビーチのような砂浜を見つけた。
立ち寄ることになって、冴山さんと一緒に自転車を停めて砂浜に降りる。
そのまま波打ち際まで迫ってみた。
「水着があれば泳げるんだけどな」
サンダルなので濡れるのを気にせず海水に足を踏み入れてみると、水温はぬるめ。
7月だし、本土より南だから気候的に遊泳するのに適した場所だ。
それだけに水着を持参しなかったのは勿体ない。
「だ、誰も居ないし、裸で泳いでみる……?」
「!?」
なんだかとんでもない提案が飛んできたぞ……。
「……本気か冴山さん?」
冴山さんはこくりと頷いていた。
「こ、ここだとひらけ過ぎてるけど、あっちに岩場があるし、その陰なら……」
……確かにそこなら大丈夫かもしれない。
男としてはその提案に否を示すことは出来ず、僕らは岩陰に移動してから衣服を脱いで海に浸かった。ガチ泳ぎはせずぷかぷかと浮かび合う。
冴山さんの豊かな双丘が、ヌッと顔を出す海坊主みたいに強調されていて、なんともえっちだった。
僕は辛抱出来ずそんなお胸に吸い付いてしまう。
「ひぎゃ……」
「ご、ごめん冴山さん……」
ばちゅ、ぶちゅ、と音を立てて吸い上げる。
……海水の影響でしょっぱくて美味しい。
「わ、私のおっぱいくらい別に幾らでも吸ってくれていいけど……き、キスもして……?」
「も、もちろん」
僕の欲望を満たしてばかりじゃいられない。
恋人なんだからお互いが満足しないとダメなんだ。
僕は冴山さんの前髪カーテンをオープンにさせて、僕だけが知っていればそれでいい可愛い顔を見ながらキスをした。
僕らはしばし海の中でイチャついていて、やがて海から上がると、冴山さんが持っていた汗ふきタオルを借りて水気を拭いた。
それから衣服を着直して取材を再開する。
「つ、次……あっちの方に見晴らしの良い高台があるから、行こ……?」
自転車に跨がって島の裏手を更に進んでいく冴山さん。
……イチャつく時間を経て少し忘れかけていたけれど、僕はやっぱりその様子を見て取材出発前の違和感をぶり返していた。
厳密にはその時とは違う違和感かもしれないけれど、多分この違和感とその違和感は繋がっていそうな気がする。
妙に。
本当に妙に。
冴山さんは手慣れているんだよな。
何にって、この島の散策に、である。
まるで勝手知ったる土地を移動するかのように、冴山さんはスイスイと自転車を漕いで先に進んでいるわけだ。
木々の合間の砂利道。
時折分かれ道もあるような場所なのに、高台までの進路を完全に把握しているかのように、冴山さんの漕ぐ脚は緩まない。
スマホのマップに頼っている素振りさえなくて、初めて来た土地でそんな芸当がやれるかって言ったら、少なくとも僕には無理だろう。
だから……僕の中にはひとつの仮説が浮かび上がっている。
冴山さんがこうしてスイスイ移動出来る理由があるとすれば、ソレしかない。
インターネットに情報が載っていない民泊なんてモノに予約を入れられた理由も、ソレなら説明が付く。
観光に適した近場の離島を避けて、この何もない妙な島を選んだ理由もソレなら納得出来る。
でもソレはまだ仮説に過ぎない。
だから冴山さんを問い詰めないといけないわけだ。
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