第17話 対抗

「はい芳野、コレお礼」


 あくる日の朝。

 ホームルーム前の教室にて。

 冴山さんとタイミングをずらして登校した僕にそう言ってクッキーを手渡してきたのは、金髪ウルフカットのボスギャルだった。


「え……お礼?」

「そ。こないだのブラウスの件、助かったから」


 どう見ても市販じゃないクッキーの袋を、高柳さんは僕に押し付けてきた。


「言っとくけど、他意はないから」


 そんじゃ、と高柳さんは友人たちのもとに戻っていく。

 ちょ、勘違いされるよw などと友人たちがキャッキャしていた。

 ……いや、別に勘違いはしないけれど。

 でも、なるほど、お礼か。

 僕は自分の席に向かいながら若干しみじみしてしまう。

 女子からクッキー貰ったのは初めてだなぁ。


「(じーーーーーーーーーーーー)」


 そんな中、絡み付くような視線がどこからか飛んできた。

 どこからか、というか、窓際の最後尾からだった。

 そう――先に登校していた冴山さん……。

 いつもの前髪カーテンの隙間から、貞子みたいなギョロッとした眼差しが僕を捉えている。


 ……怖い。

 なんで不機嫌なの?

 よく分からない。

 とにかく怖い。


 とりあえず気にせず僕は学校生活を過ごし始めたものの、冴山さんは午前のあいだずっと僕にその怖い眼差しを照射し続けていた……。


   ※


「よ、陽キャ化許すまじ……」


 そして昼休み。

 いつもの非常階段で冴山さんのお手製弁当を食べていたら、冴山さんもやってきて超至近距離からの貞子アイが照射され始めてしまった……。


「よ、陽キャ化……?」

「た、高柳さんからクッキー、もらってた……よ、陽キャ化してる……」

「い、いや待ってくれ……それが朝から不機嫌だった理由ってこと?」


 こくり、と冴山さんが頷いてみせた。

 マジか……。


「よ、陽キャ化しないって……先日約束したのに……」

「いやいや……どんだけ陽キャ化のハードル低いんだよ」


 地面に埋まってるだろそのハードル。


「そもそもクッキーもらったくらいで陽キャ扱いなら、冴山さんから毎日弁当を持たせられてることの方が陽キャというか、リア充じゃない? 持たせてくる冴山さんも含めて」

「――ひぎゃあ!!」


 図星を突かれた冴山さんが悲鳴を上げていた。

 可愛い。


「わ、私はいつの間にか忌まわしき陽キャリア充になってた、ってコト……っ!?」

「うん……」

「で、でも……っ」

「……でも?」

「よ、芳野くんとそうなるなら願ったり叶ったり、だから……」

「――っ」


 何を言っているんだ冴山さん。

 やめてくれ勘違いしてしまう。


「と、ところで高柳さんのクッキーは食べた、の……?」

「え、あ、いや、まだだけど……」

「……食べるの?」

「そりゃまぁ、せっかくだからね……」


 捨てるとかはありえない。

 弁当を平らげたあと、僕は包みを開けてデザートとして高柳さんのクッキーを食べてみた。


「あ、旨い……」

「わ、私だって作れる、もん……っ」


 そんな対抗心を見せた冴山さんが、この日の放課後にクッキーを大漁に作り過ぎて夕飯すらクッキーになってしまった話はまたいずれ……。

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