第4話
一週間後、レンさんは正社員になった。
青子がおめでとうと言うと、困った顔で微笑んでいた。
周りは自分の母親くらいかそれ以上の年齢の人もいるのに、指示出ししなきゃいけない立場になるって大変だなと青子は他人事のように思った。
レンさんはこの異国で社会人として自立すると決めたのだ。
それはすごく強いことだ。
青子みたいに週3回の出勤でも、それなりに生活出来ていて、30代半ば超えて、声優としての夢を追って、なんとなく周りからフォローしてもらえてるなんて、異国から来て、必死で正社員になろうとしている人にとっては、腹が立ってしまうのは、なんとなく理解できた。
レンさんは、今は以前にも増して、落ち着いてフォローして新しいレジやキャンペーンの情報も教えてくれているし、もう同じことは起こらないだろうなと感じられた。
もともと素直な子だったし、もしかしたらどこかで同じようなことを見て、真似しただけなのかも知れなかった。
レンさんのそれは良いとして、やっぱり問題は自分自身なのだなと青子は思った。
声優一本で生きていけるよう精進しているわけでもなく、学生のアルバイトの延長のような仕事しかしていない。
周りのフォローのおかげでなんとなく上手く行ってはいるけれど、自分らしく生きているかと言ったらそうではない。
だからって結婚して家庭に入る予定も、また婚活する気もさらさら起きなかった。
自分にはこれっていう軸になる活動場所がない、いつも片足を突っ込んでる状態だ。
青子は仲間が欲しかったのだ。
一つのアニメという作品を作り上げる過程で、関係を築き、またその過程が周りに影響して、モノづくりの輪が循環することを期待していた。
しかし、たまにアニメに使ってもらえても、その場しのぎ。
声優同士仲良くなれる人もいるのに、自分は声をかけるような魅力がないに違いないと青子は肩を落とした。
そして他人を押しのけても監督に見てもらおうというハングリー精神にもかけているのだ。
だからオーディションでもあまり印象に残らない。
「どうしたもんかな」
近所の川沿いを歩きながら、青子はぼんやり考えた。
別に自分と同じような生き方をしていた人がいたとして否定するつもりは青子にはない。
だけれども、声優を目指してここまでフリーターやってきたのに、誰でも分かる出演代表作もないなんて、なんだか悔しいのだ。
「だれもが知ってる良作アニメのメインキャラがやりたい」
そうだ、それも自分が子どもの時見ていて、今も好きでい続けてしまうような、そういう作品に出たいのだ。
「でもいかんせん。わたしは主人公タイプや、前に出るタイプではない」
どうすれば、自分の合ったキャラに上手いこと配役されるのか、でも結局それって制作会社と声優事務所の関係も絡んでくる。
青子が一人川の前で、頭を抱え、何人もの通りすがりの人に不審な目で見られていた時、青子のスマホが鳴った。
あおのこえがひびく @hitujinonamida
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