第3話

 青子は嘘のミスをなすり付けられていると気が付いた時から寝つきが悪くなった。

 蓮さんは店舗の不動産を持ってる社長の娘さんなので、人数が少ない中、こちらから頼んで来てもらったと以前本田さんから聞いた。下手なことは出来ない。どうしたら良いかわからないまま

 調度そのコンビニの上で物件を安く借りているので、もしなにか今以上の大きなミスを自分のせいにされたら、居づらくなってしまうと気が気でない。

 


 ここに住まわせていただいている感謝を、仕事への態度で表しているつもりだったけど、それが気に食わない人もいるんだ。


 「私が悪いんじゃなくて、向こうがしてきたことなのに、なんで私が居づらくならなきゃいけないんだろう」


 まだミスを擦り付けられたと決まったわけではないが、相手に聞けるほど強くもないし、その後の展開を考えると黙っておくしかなかった。


 コンビニも青子は今フルタイムで入っているわけではない。

 たまに声優の仕事が入るがレギュラーだから顔見知り程度の付き合い。

 演技や制作について、熱く語り合うほどの仲間には未だに巡り合えない。

 ここに住まわせてくれている隣人の本田さんは頼りにしているが、恋人ではない。


「私には、誰も深い関係の人がいない。こういう時。誰にも頼れない」


 



 救いなのは年上のパートさんたちが、それまでと変わらず普通に接している時だった。


 ある時、レジで凄く絡んでくるお客様がいた。


「これ、4個で500円ってなってるけどちゃんとなってる?」

「は、はい。なってますよ」

 青子は登録画面を見て答えた。

「じゃあこっちは税別ではいくらなわけ?」

 青子が答えても答えても、他の質問が続いた。

『きっとなにかにつけ文句つけてストレスを私に押し付けたいだけなんだ。なんでいつも誰よりも良い対応して安い賃金で税金引かれてるのに、こんな負担ばっか割に合わない』

 青子がおおきく溜息を付いた時、大柄のパートの女性の保谷さんが前に出てきて対応を変わってくれた。

 後でお礼を言うと「そんな忙しいんだから、ことわざわざ言わなくてもいい」っと怒られてしまった。

『昭和気質のツンデレだよな。でも本質的に面倒見良いのが何故かわかる』

 青子は保谷さんの大きな背中を見ながら、もう誰が来ても、深く悩むのはやめようと決めた。

 自分は自分が出来ることをやるしかないのだ。

 店にクレームが来るか、宇宙人が来るか、車が衝突してくるかなんて、何万通りの未来を予測するなんて不可能なんだから。


 誰がどういうつもりで自分のことを陥れようとしたとして、その心を知っても理解出来るとは限らないし、そういう人は往々にして、気が小さく、その行為の意味は本人の度量のなさから来ている。


 そこにある楽しくはない感情まで、度量があるとしても本人でない人間が背負う必要はない。


 それより、自分を見ていてくれて、助けてくれる人に感謝しよう。

 いつも、こういう風に、タイミングよく間に立ってくれる人がいるんだから。



 その時青子ははたと気が付いた。

『それって、ピンチの時現われるヒーローと同じじゃん?』


 『あれ、私普段。保谷さんみたいに、誰かのピンチに自分から入ることあったかな?多分もっと『助けます』って相手に恩着せがましい顔で向かってた気がする。声優オーディションの時もそう。審査員の目を気にして『キャラやってますアピール』の形だけの演技だけでそのアピールがウザくて演技自体見てもらえて無かったかも。場と調和してなかったかも?」


 何故か一気にそんな気づきの連鎖が現われ、青子は一人気が付かず、カウンターのレジとレジの間で目を点にしていた。

 


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