第2話
セルフレジにも、新しいバイトの子にも慣れない間に、コンビニを辞める人が増えていった。
セルフレジが慣れない上に、カウンターでの商品やアニメとのコラボ商品や景品付き商品は増えて言って、時給は増えないのだから仕方ないだろうと青子は思った。
毎日お客様の質問攻めと、度重なるクレーム。
試に青子が、セルフレジの音声と同じ音程で直接「アンタ、扱いづらいのよ」といってもうんともすんとも返さない。
ただ声優志望の新人君が腹を抱えて爆笑しただけだった。
「青子ちゃん、さっきのお客さんにまたケチャップ入れ忘れてたわよ?」
「え?ほんとですか?」
パートの三簾さんに思わず身体ごと振り向く。
「しかも、またコーヒーのSとM間違えたでしょ?」
「ええ?」
青子は先日同じ失敗をしてから、入れる時と渡す時で二回確認をするようにしてるので驚いた。
最近はコラボや景品目当てで来るお客様が多くて、特にミスに気を付けていたつもりだが、一生懸命やってるのに、自分にがっかりしてしまう。
客は電話口で怒鳴っており、ケチャップだけのために店長がバイクで届けにいくことになった。
「すいません」
「いや、良いよ。次から気をつけて」
この『次から気をつけて』を最近何度も言わせている。
「おっかしーなー、いやいや気をつけよう。周りに失礼のないようにしないと」
しかし次の日。
「青子さーん、さっきのお会計でコーヒーのSをMと間違えてましたよお」
「えーごめんなさい!」
しかし、違和感が何故か青子の背筋を撫でた。
青子はこっそりレジの履歴を見た。
すると、先ほどのレジではコーヒーのサイズを青子はしっかり『S』で打っていた。
『私のせいにすることで、この店はストレスを軽減している。誰も、ミスを擦り付けられた私の気持ちは考えてくれない。』
決めつけでなく、直感で違和感の正体を感じ取った次の瞬間。ここは自分にとって仮の居場所でしかないのだと、目の前の現実が言っていることに気が付いた。
青子がレジの履歴を確認しているのを見て、注意してきた年下の蓮ちゃんは、レジが込んでても、青子が入ると入らなくなった。
青子は気にしないふりをして、みんながそうしてるわけじゃない。あの忠告も悪意があったわけじゃないかも知れないと、頭で自分の感情を抑えるように努力した。
きっと自分でなんでも片付けようとするからいけないんだと思い、清掃などを周りに頼んだり、新しい商品があった際には、周りにも情報共有をするように務めたが、なんだかそれで逆にうるさく思われ始めてしまう。
青子がレジに立っているだけで、目配せしてにやにやしてる人もいた。
いやでも実は以前からそういうことはあったんだ。
ここでしか、生活費を稼げないから青子は知らないふりをしてきただけ。
『努力しない人間て、ほんと簡単に人の足ひっぱるんだよな』
青子はレジの手前の自分の足元に、暗い沼がある気がした。
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