第38話

「他…と、言われましても。あ」

「ふむ?」

「動物も治せます。フクロウを助けたら懐きました」

「ほうほう。それで?」

「…以上です」

「あのな、コートリー中尉。俺は一応情報収集のプロだ。この連隊陣地内は俺の縄張りで、どんな細かいことでも報告が上がってくる。他人の口伝手の歪んだ情報で判断されたくなければ、自分の口で伝えた方がいいぞ?」

 中佐の目が早く吐けと告げている。誰かに見られて、何か聞いている?でもアレはまだ人で試したことはない。ユーリアやスザナにも言っていないし、現場を押さえられたとして何をしているのかはさっぱり分からないはずだ。誤魔化した方が良いのか、今素直に伝えるべきか。どっち?

「本当に嘘が下手だな。正直は美徳だが、腹芸は覚えろ」

「はあ」

「こんな単純なカマ掛けに引っ掛かると思っていなかったが、まあいい。聞かせてもらおうか」

 ホイアー中佐が片眉を上げると、場の空気が一気に和んだ。何だろう、これって尋問の手法か何か?

「あの、質問しても?」

「何だ?」

「何故嘘だと?」

「隠し事が無いならすぐに否定するだろう?反乱について聞かれた時のようにな。今の考え込み方は何か抱えている時の癖だな。誤魔化したいなら目線の向きを変えるなり、何でもいいから口にするなり工夫しろ」

「う、はい」

 この短時間で会話の癖を読まれた?情報将校怖い。でもそれを正面切って説明してくれるのは優しい…のか、それもテクニックなのか。

「さて、どんなトンデモが飛び出してくるのかな?ワクワクが止まらんよ」

「えーっと…」

 冗談めかして言っているが、ホイアー中佐が真剣なのは分かる。治癒にしても防御にしても、戦況をひっくり返しかねない『トンデモ』だ。実際、今日の作戦では無傷で敵の防衛線に大穴を開けている。この場に作戦参謀のデューリング少佐が居るのも、ただ仲良しだからとかそんな理由では無いだろう。

「一つ確認させてください。この場で話した内容は、どこまで報告が上がりますか?」

「公式には第3軍司令部まで報告書が提出される。後は、俺が何を報告するか次第だ」

 つまり中佐の腹一つ。情報将校が情報を握り潰していいのかという疑問はあるが、軍内部も一枚岩では無いのだろう。

 さて、どうするか。

 新しく気付いた能力……というか、新しい能力の使い道というかは、実際に戦争そのものを変えると思う。ある意味、大佐が私を召喚した時に望んだ力だ。敵を滅ぼす、悪魔の力。天使だとしても、黙示録に出てきて喇叭を吹き鳴らしている方。

「話したくないなら話さなくてもいいが、そうなると今後中尉の行動は永続的な監視下に置かれる。好きな方を選べ」

 中佐の言葉は事実だろう。これまで積み上げてきた治癒の実績に加えて、今回公式に記録された防御。おかしな大佐が送り込んできたよく分からん東洋人で済ませられる話ではない。今こうして尋問されているのも、拘束されていないだけマシなのかもしれない。

「ええと、まだ試したことは無いんですが」

「ふむ」

 頭の後ろで両手を組みリラックスしたポーズを取ってはいるが、中佐の全神経が私に向けられているのが分かる。デューリング少佐も書記の准尉も、私の次の言葉に集中している。すうっと大きく息を吸い込み、一度気持ちを落ち着かせる。

「私の能力で、人を殺せます」

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