第35話

 相変わらず薄暗い壕の中では、腕組みをした面々が待っていた。作戦参謀の少佐が右側。正面には見覚えはあるが担当は分からない中佐。別の机には筆記用具を広げた准尉。いつか見たような光景に唇がひくつく。目線だけで着席を促され、そおっと座る。

「さて、まずは大戦果おめでとう中尉。イーペル戦線始まって以来、伝説に残る大活躍だ」

「は。いえ。ありがとうございます」

 正面の中佐が笑顔で両手を広げる。芝居がかった動きが胡散臭さ満点だ。

「まだ一報を読んだだけだが、ヤンセン中隊の言う通りなら敵の死傷者は大隊規模以上、野砲15門を破壊。弾薬庫を爆破し通信線を寸断。陣地の復旧に1月以上を要する被害を与えたとか。敵士官を捕虜にし、新兵器も持ち帰った。実際目にしていなければ作り話を疑うところだ」

 少佐が剃り上げた頭を擦りながら紙束を机の上に投げた。走り書きのメモには勇ましい言葉が踊っている。確かにこんなの、私の世界で言うなら大本営発表みたいなレベルだろう。

「まさか本当に地雷原を行進していくとはな…。しかも歌を歌いながら。何という歌だったかな、あれは」

「小夜啼鳥の歌、だそうです」

「ふむ。連合王国の愛国歌だな。誰の発案だ?コートリー中尉か?」

「さあ?私も初めて聞きました」

「そうかそうか。なるほど」

 中佐がにこやかに身を乗り出してくる。

「何やら連隊内では中尉を聖女と呼ぶ連中も居るらしいな?人望があって何よりだ」

「いえ。それほどでも」

 中佐の圧に押されて椅子の背にのけぞるようになっている私を見て、少佐が溜め息を吐いた。

「なあホイアー中佐。そいつはたぶんただの馬鹿だ。単刀直入に聞いた方が早いぞ」

 言い方。否定はせんけど。

「まあな。裏があるなら俺の顔くらい把握していそうなもんだが、何も知らんようだ」

 ホイアー中佐が椅子の背に身を預けた。一気に砕けた感じの空気になる。

「直接話すのはこれが初めてだな。情報参謀のホイアーだ。覚えておいて損はないぞ」

「は、い」

 いわゆる情報部の人?そんな人に目を付けられるようなことはしてないはず。きっと。たぶん。

「では我が友、デューリング少佐の忠告に従い単刀直入に聞こう。コートリー中尉、貴官には反乱扇動の容疑がかけられている。身に覚えはあるか」

「はい?」

 なんですと?

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