第34話
帝国軍陣地に戻ってほっとしたのも束の間、お返しの砲弾が降ってきた。とはいえ敵も何を狙っていいのか分からない状態なので、なんとなく手順通りに横一列に弾幕を張っているような感じだ。暴風に飲み込まれる前に中隊と別れ、宿舎に戻った。
宿舎で遅い朝食を摂りつつ報告書を書く。正確には朝食は作戦前に食べてはいるが。良く言えばビスケット、実態に即すなら粉の塊、の戦闘糧食。大戦果のご褒美だと厨房の皆さんがくれたので、いつものパンとスープの食事も手に入った。おまけでこっそりコーヒーも付いたので、砲撃の振動が絶えない中少し優雅に過ごせている。
私達は一応連隊本部付の独立部隊なので、日報は毎日書いている。それに合わせて、今日は戦闘に参加したので戦闘詳報を書かなければいけない。どんな作戦に、何人参加したのか。作戦経過はどのようなものだったか。消費した武器弾薬は。戦果は。そんな項目を埋めていく。
「確認をお願いします、閣下」
「ありがとう」
といっても書くのはユーリアだ。私が書くと小学生が一所懸命頑張りました感ありありになってしまう。ユーリアの筆跡は優雅で読みやすい。内容をざっと確認し、私のサインを入れたら本日の報告終わり。後の時間は砲撃で負傷した兵士の治療をしていく感じになりそうだ。
「失礼いたします」
外から誰かの声がした。スザナが応対に立ち、何か封筒を持って帰ってきた。宛先は私。開封すると、中にはシンプルな命令書が入っていた。
『発 連隊司令部
ハナ=ミーア・コートリー中尉
上記の者は、本日一三〇〇に下記に出頭せよ』
なんちゃら壕とか書いてあるが、私にはどこのことだか分からない。
「ユーリア、これってどこ?」
「ええと…。ああ、ここなら閣下もご存知のはずです」
ユーリアが道順を説明してくれる。話を聞いているうちに、記憶が蘇ってきた。延々続く質問。疲れ果てた頭に夜風が染みた。大佐とシュメルツァー大尉に呼び出され、私の世界の話をし続けたあの場所だ。
「……何の話だと思う?」
「それは何とも。今日の作戦の件でしょうか」
「きっとご褒美ですよ。がんばりましたですから」
スザナがニコニコしながら言うが、その可能性は低いと直感が告げていた。私、何か悪いことした?
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