ユーリア・ヘッケン伍長の述懐 4
それから毎日、中尉は当たり前のように奇跡を起こし続けた。何でもないような顔をして傷を治し、吹き飛んだ手足を生やしていく。軍機として箝口令が敷かれても、補給大隊内に、そして帝国軍内に西方戦線の聖女の噂が広まるのは止められない。特に最前線の兵士達は、もう命は助からないだろうと思っていた戦友が何事も無かったかのように戻ってくるのを目の当たりにするのだ。それは目に見えない神などという曖昧なものではなく、確かに存在する圧倒的な力に対する信仰になる。
当の本人は呑気に初等学校の教科書を読み進めている。読み方を教えて欲しいと頼まれて付き合っているが、こうしていると彼女が本当に子供なのだと実感する。ろくに国語の読み書きもできないのに、その能力故に医師の身分を与えられ、戦場に放り込まれる。帝国のやっていることには吐き気がするが、それでも共和国の連中よりはマシだ。せめて命令通り「最適な環境」を保つべく、私は任務に励んだ。
1月が過ぎようとする頃、イーペル方面に展開する連隊への転属命令が出た。共和国との国境に程近いイーペルは今回の戦争でずっと最前線であり続け、街は完全に破壊されたと聞いている。任務の詳細は一切明かされていないが、おそらく最前線で負傷兵を即座に治療し戦線復帰させるのが狙いだろう。敵と目が合う位置まで進出することもあるかもしれない。思わず体に力が入る。
女だからと、直接戦うことができずにいた。もちろん従軍看護婦という立場だし、戦闘要員ではない。だが、軍籍のある身として緊急時のために一通りの教練は受けている。最前線の混乱の中では、何が起きるか分からない。
私の家族を確かな理由もなく殺した臨時政府の連中は帝国軍に押されて共和国国境まで撤退し、そのまま戦線を担当していると聞く。私の手で、直接、報いを受けさせる。
必ず。
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