第13話
よく晴れた空を、小鳥が囀りながら通り過ぎていく。ぼんやりしていると、元の世界のことが頭の片隅から身をもたげてくる。私が居なくなって困って…は、いないだろうなあ。そもそも時間が経過しているのかも分からないけど。戻りたいかと言われると…今のところは観光気分でどっちでも良いというか、無理に仕事に追われる日々に戻りたくないというか。いくつか追ってたコンテンツがあるのでその展開は気になるけど、それ以上ではない。というか戻れるのか?聖女に転生みたいなやつで円満に元の世界に戻るエンドってどれくらいあっただろうか。基本的に男にチヤホヤされてラブラブハッピーエンドとか、そんな感じだったような。
どうしようもないことで物思いに耽っていたら、大隊長から伝令が来た。ここに来た時に申告に出向いて以来、ほとんど接触のなかった上司からの出頭命令だ。あんまり良くない予感を抱きつつ、定刻に司令部に向かった。
「ああ、中尉。堅苦しいことは抜きにして、要件のみ伝える。軍司令部より命令書が到着したので受領されたし」
「受領いたしました」
『機密』『本人以外開封不可』とでかでか書かれた封筒を手渡され、開けてよいものかどうか大尉の様子を窺う。明らかに面倒事に巻き込まないでほしいと顔に書いてあったので、敬礼をしてもう自宅感覚の接収民家に戻った。スザナにナイフを持ってきてもらって、ガチガチに糊付けしてある封を切ると、中には辞令が3枚。私と、ユーリアとスザナ宛だ。
『第57歩兵師団第23歩兵連隊司令部付を命ずる。』
発令日は…3日後。第57師団はこの補給大隊が所属している師団で、第23歩兵連隊っていうのは…。見覚えがあるようなないような。
「ユーリア、これって」
「失礼します」
辞令を見ると、ユーリアの顔色が変わった。眉間にぎゅっと力が入る。
「第23歩兵連隊ってどこにいるの?」
「イーペル方面に展開している連隊です。共和国軍と直面する最前線を担当していると記憶しています」
見覚えがあるはずだ。治癒後にサインするだけの負傷兵リスト。所属毎にまとめられた書類の2割は第23歩兵連隊だった。今も響く砲声の産まれるところ。毎日手足を失った兵士を産み出すところ。
私達3人は、20マイル先の地獄のど真ん中に放り込まれることになったようだ。
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