第12話

 それから毎日、前線から負傷兵が送られてきた。その都度繰り広げられる治癒の光景を目にするうちに、少なくともスザナとユーリアは慣れてきたようだ。あまり士官らしくない私の言動に合わせて、それなりに敬意は払いつつも気安く接してくれるようになったと思う。片っ端から治癒してしまうので野戦病院として使用されることが無くなった教会には、病院長の少佐と主計業務もできる衛生兵2人だけが残され、他は全員別の野戦病院に移動していった。聞いた話だと軍医少佐殿は戦傷の統計と分析業務を振られているらしい。電卓すら無いこの世界だと全て手計算でやることになる。「数学の素養は?」と期待を込めた目で見られたこともあったが、笑顔でスルーした。私にそんなもんを求めるのが間違いだ。

 最初のうちは聖女の噂を聞きつけた補給大隊の皆様が見学に来ていたが、ちんちくりんの私には興味をそそられなかったのかすぐに落ち着いた。まあ見た目ならユーリアの方がよっぽど聖女っぽい。金髪碧眼ですらっと背が高く、こっちの基準は分からないが私目線では美人だ。飾り気の無い軍服に赤白腕章でも目立つ。本人に「『聖女』って腕章付けてみる?」と振ったら塩対応だったので、蒸し返さないようにしている。

 スザナはよく笑うしよく働くし、すごく良い子だ。大佐から私宛に送られてくる食糧以外にも、その辺から野菜を収穫して料理を作ってくれる。元々は農村だったところの畑を潰して野戦補給厰にしているので、こぼれ種やら落ち穂やらでそれなりに食べられる品種が自生しているらしい。鶏と豚も数は多くないがいるらしく、補給大隊の皆様と時々狩りをしているようだ。食生活の水準が落ちるのは覚悟していたが、今のところ彼女のおかげでわりと新鮮で良い物を食べられている。ユーリアは時々顔を顰めているので、帝国の人にとっては味付けが独特なようではあるが。

 そんなこんなで、わりと楽しく軍隊生活をすること1ヶ月。やることといえば1日に多くて数回の治癒だけで、後は自由時間。低く響く砲声も体に馴染んできた。ぶらぶら村の成れ果てを散策していたら帝国語の教科書を見つけたので、ユーリアに協力してもらいながら勉強したりして私は大学生以来のまったりした時間を過ごしていた。

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