第4話
私が銃弾を弾いたのは召喚時に確認できていたので、まずはその検証からだった。拳銃。小銃。機関銃。向けられた攻撃は何でも弾いた。意識しているなら、周りにいる人に向けられたものでも同様に。「私を守ってください」と言ってこめかみに拳銃を当てて発砲した大佐が本当に怖かった。実験を繰り返すうちに何か持っていた方が集中しやすいのが分かって、たくさんある小銃を一個もらった。最初は地下室で見た杖を渡されそうになったけど、顔っぽいのが全部本物の干し首だと聞いてちょっと意識が飛びそうになり、「量産品でいいです、量産品がいいです」と泣きついたのだ。ずっしり重いし銃としての扱い方は分からないが、とりあえず大佐の手が加わっていないというだけで安心できる。
小銃を抱えた私が次に試したのが攻撃。でもこれは芳しくなかった。やり方のイメージができないというか、自分の身を守る時みたいな明確な目的意識を持てなかったのだ。いやまあ普通の人間が「ちょっとその人殺してみて」って言われてできるかって話だけど。銃を渡されたって引き金を引けるかどうか微妙だ。
このままだと無敵の盾として最前線に投入されそうなので焦っていたら、もう一つ重要な力が見つかった。館の中庭で実験している時に、庭師が枝で引っ掻いたとかで手の甲から血を流していた。「大丈夫ですか」と何気なく声を掛けた時に、何かが流れていく感覚があった。次の瞬間には傷は綺麗に消えていた。
治癒の力。これに軍医でもある大佐が食いついた。早速実験だとばかりに銃剣を持ち出してきた大佐を止めると、次の日には軍病院の視察が決まっていた。通された処置室に、1人ずつ負傷兵が運ばれてくる。軍機であるため方法については口外しない旨を誓約させられた兵士達に、私は衝立の陰から自分でも原理の分からない力を行使していく。カルテに何事かを書き込みながら経過を観察する大佐の瞳が興奮のせいかギラギラした色に染まっていった。麻痺が残っていたはずの腕が動き、腰から下の感覚を失っていた兵士が歩いて処置室を出ていく。眼球ごと視力を失っていた兵士が両目から涙を流して大佐に感謝を伝えているのを見て、私は全身に鳥肌が立つのを抑えられなかった。銃弾を弾くのも大概だけど、これはそれ以上だ。再生医療とかいうレベルじゃない、時間を巻き戻しているような異常な感覚。奇跡に対する興奮よりも恐怖が勝る。そんな私に、大佐が笑顔で近付いてきて言った。
「あなたは、間違いなく聖女だ」
法悦、と言うのだろうか。少し上擦った口調で賛辞が続くが、私の耳には意味を為して聞こえなかった。熱に揺らぐ空色の瞳が、私に告げる。
決して逃がしはしない、と。
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