第33話

「…っ、瞳がいなくなったらやだ」


「いなくならねーよ」


「嘘。私のせいで、素性がバレたら、よくない」


「てか、知紗を彼女にしたかったの俺だよ?なんで俺がいなくなるわけ?ありえなくね?逆だろ」


「逆?」


「俺は、知紗がいなくなるの、やだ」


「…ならないよ?」


見つめられた。キスされた。強引だった。


「心配、かけて、ごめん」


瞳は笑った。よかった。またキスされた。


「…はぁ、知紗」


瞳にじっと見つめられる。


「泣くと俺の理性がやばい」


「瞳、玄関じゃしないよ?」


「…移動する?」


「うん…でも、シャワー浴びないと」


髪の毛、顔に張り付いてた。汗かきすぎてる。ベタベタして気持ち悪い。


「…すぐ移動していい?嗅がせて!」


瞳は猛獣のような目だった。たまにこういう目をする。感情むき出しだ。匂いフェチな瞳。シャワー浴びたかったけど、今日は瞳にサービスしてあげよう。思う存分嗅ぐが良い。


「知紗…はぁ、めちゃくちゃいい…」


私の本当の名前を呼んでくれるのは、瞳くらいかな?


「…かわいい。すげぇかわいい…知紗」


じろじろと瞳は見てる。にやにやした顔してる。そういう顔してられるのは今のうちですよ?


…今日はいつもより時間あったから、長期戦となったわけで。


「…ちょっとやりすぎちゃったね。くたくた」


「…は?なに?」


瞳も疲れてる。私よりもぐったりとね。でも私を見つめる。


「ごめんね。嫌だった?」


「別に。知紗にされるの好きだし」


しれっと言うところかわいい。


「…旅行断るから」


「あ?そもそもなんで旅行?」


「社長の奥さんが私のファンで、瞳も見たいから旅行したいって」


「意味わかんねーけど、金持ちの娯楽なのかもな」


「…そうなの?」


「金払って普通は芸能人と遊べなくね?」


「芸能?」


「知紗のこと」


「え、私が?」


「そ。だからさー、知紗を呼べる私すごい的なやつだろ」


「そうかな?…それより宮本さんって誰?ヤクザじゃなそうだったね」


「は?…聞こえた?」


「うん」


瞳もだけど宮本さんも声が大きかったから。


「…宮本さんは、俺の働いてるところの経営者。俺は経理してる」


「そっか。優しそうな声だった」


「まぁ、優しいよ」

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