実は後始末の方が大変
戦いの直後――
まず昭の救助が最優先となった。この時役に立ったのは、はじめは乗り込み口だと思われていた背中側にある穴である。しげるが近付くと、この穴はしっかりと機能した。つまり非常口としての機能だ。
しげるはそれが嬉しかったのか、
「な! な! な!」
と、実に鬱陶しかったのだが全員がスルー。
元々、人が潜り込めるだけの余裕はあった穴だ。開いてしまえば、昭を引っ張り出すのにさほどの苦労はかからない。
それとほとんど同時に、地球衛星軌道に近付く物体があることが観測される。その動きを逆算したところ月の裏側に漂っていたらしいことが推測された。
ある意味では、その物体はベタな場所に潜んでいたことになる。
物体はコンキリエのような大別すればUFOというようなフォルムでは無く、武骨なハンガーラックそのものといったようなフォルムだ。
どうやって移動しているのか見当が付かないが――異星人のものだと考えれば、それも当然の話である。
ボロ雑巾になったムラシンガーとムラシンは、上空のハンガーラックに吸い込まれるように回収されていく。
そのまま放置することで、地球側に技術の片鱗でも渡すつもりは無いらしい。あるいは「汎宇宙公明正大共存法」に、その辺りが明記されている可能性もある。
ムラシンガー達の回収と同時に、昭の救助作業も続いていた。ヘリコプターで吊るして、しげるがセントーAの背中に取りつくまでは急いで。
昭を回収してからは慎重に。
ヘリコプターはそのまま昭の住む町へと引き返した。ペイロードに救命処置が出来る一式が詰め込まれていたのだが、すぐさま昭はただ眠り込んでいるだけだと判明する。
それもまた昭が住む町へと戻るという判断を後押しすることになった。何と言っても防諜のやりやすさだけでも、その方が有難いのだ。
それに加えて昭自身が無防備となると暗殺の可能性も否定できない。
セントーAの声が聞こえる地球人は全世界に存在していることは判明している。それがセントーA搭乗者の資格というなら、昭亡き後、権利を主張してくる国も出てくるだろう事は間違いないのだから。
そういった事情もあり、地元に戻っても大きな病院に入院させることもなく、元から要塞のような防衛体制だった矢立組の本家に運ばれることになったわけである。
さて、そうやってある程度は昭の安全が確保された後に、改めてセントーAを格納庫に収めることになった。
この時に、やはり役に立ってしまうのがしげるだった。
昭のように機敏に動かすことは出来ないが、しげるでもどうにかこうにかセントーAを動かすことが出来るのである。
以前の腕と脚が間違えて取り付けられた状態でも、しげるは何とか動かすことが出来たわけで、今は以前よりは動かしやすくなっていた。
しげるは意気込んでセントーAに乗り込み、歩かせようとしたわけであるが……
セントーAの声を聞いてしまうのである。
しげるにとっては、存在を否定されるような声を。
~・~
「はぁん、それがセントーAの『引っ越したい』って声だったわけだ。俺の近くに居たいって」
「そう聞いています」
すでに二人は「路傍文化」に引き返していた。昌子もパートに出ており、結局二人で買い置きのカップ麺を探るしかない。
生活がさっぱり豊かではない二人だった。
「確か……クソ親父は、あの辺りに基地を作ることで喜んでいたよな。そうなると引っ越しはざまぁ見ろって感じだが、よくそれを他に漏らしたな」
「その辺りは、他にも声を聞いた人が現れたようですね。セントーAがそれだけ強い意志を示した、という事になるのでは?」
いやサヒフォンはカップ麺では無く、冷凍庫からラーメンを引っ張り出していた。名店監修というレーベルである。
それを電子レンジに入れていた。
「なるほどな。誤魔化しきれなかったと。で、実際にどうするつもりなんだ?」
すでにカップにお湯を注ぎ終えている昭は、待ちの態勢だ。
「セントーAの意向に従うしかないのでは? そのうち昭さんにも確認するように言ってくると思います」
「それはあるか~……ん? でもセントーAがこっち来て、どうするんだ?」
「それが悩みの種みたいですね。ね? どこで戦うんだって話にもなるでしょう?」
そこで車中でのサヒフォンとの話に繋がるわけである。
演習場であれば、起動からそのまま戦いに移行できるわけだが、この町では到底不可能だ。確実に人死にが出る。
となると、セントーAに昭が乗り込んでから、然るべき場所――演習場みたいな場所だ――に移動させるとしてだ。
歩くなり走るなりにしても、その道を整備しなければならないだろう。移動させるための運搬車についても同じ障害が予想される。
それに前提として、
「この近くに開けた場所なんかねぇぞ」
という問題もあるわけだ。
「僕に言われても……とにかくそんなわけで戦いたくても場所がまずありませんから」
「そうか……いや移動させる前に――いやそのこっちに移動させること自体が出来ないって事にならないか?」
どの角度から考えても引っ越しは前途多難である。
二戦目は勝利で収めることが出来たわけだが、それに連鎖して現在も様々な変化が起こりつつあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます