しげるの情報収集先も胡乱
立ち上がる。そして走り出す。いや走りだそうとするセントーA。昭の気力も十分だったが、如何せん片足だけの装備ではバランスが保てない。
片足を引きずるような動きになってしまう。
追加装備が重すぎて足が持ち上がらないという風ではなく、力の入れ方が掴めないようだ。見ていると、いきなり右足を大きく持ち上げたりもしている。
「大丈夫なのかしら」
指揮所の南がそう呟いてしまうのも無理のない話だ。
「しかし武器が無ければ決着は付かないでしょう。再試合になるとしてもデータだけは欲しい」
プラカスが冷徹に応じた。やはり再試合の可能性が高いと踏んでいるようだ。それを聞いて南も頷く。
それだけ「カッターキック」が望み薄という事だ。
セントーAはそれでも健気に走り続け、ついにムラシンガーに攻撃が届く範囲に復帰した。同時にそれはムラシンガーもまた攻撃できるという事。
ムラシンガーは珍しく、セントーAが攻撃してくる前にキックで攻撃する。
昭は今の状態での攻撃は潔く諦めた。重くなった右足を地面に突き立てるようにして受けて立つ構えだ。躱すことも出来ないと判断したらしい。
刀の切っ先は下に向けられていたが、それが地面に突き刺さることもない。そういう状態でなければ歩くことがますます困難になるので、これは仕方ないだろう。
本家の「カッターキック」もこういう感じだ。だからこそ攻撃が当てづらく、しょっぱくなるわけだが……
ドボゥゥン!!
ムラシンガーのキックが防御するセントーAの腕にヒットする。相変わらず軟性の響きを伴った打撃音だった。所謂「打震」――相手体内の水分に影響を与える攻撃法――を思わせる音ではあったが、ロボット同士の殴り合いでは効果は望めない。
ここまでの殴り合いで、セントーAも幾たびか攻撃を食らっているが、それも効果があったわけでは無い。ましてや今のようにしっかり構えた状態では尚更だ。
ムラシンガーの攻撃を正面から受け止めたセントーAに、今度は正面から攻撃できる権利が発生した。
昭がそこまで考えていたのかは不明だが「カッターキック」を試すには絶好の機会だ。攻撃を受けた力を上半身だけ半身になって流しながら、右足を振り上げる。
同時に刀の切っ先が回転を始めた。
ムラシンガーのボディに回転する刀が迫る。ムラシンガーはそれを甘んじて受けるしかない。今度こそ有効なダメージを与えることが出来るはず――
ビィィィン!
今までとは違った音が響く。ムラシンガーのボディが切り裂かれた音――かに思われたが、ムラシンガーの見た目には大きな変化が見られない。
しかしセントーAの攻撃が全く無駄だというわけでは無いようだ。
「カッターキック」を食らったムラシンガーが、控えめに言っても弾け飛んだと言っても良い状態になったのだから。
ムラシンが、
「何だいこりゃ!?」
と、叫ぶ程でもあるので予想外の現象が起こったことは間違いないようだ。
昭もまた右足からのフィードバックに違和感を感じた。だが、それが喧嘩をやめる理由にはならない。
昭は蹴り上げた右足を下ろすと、セントーAは弾け飛んでいったムラシンガーとの間合いを詰める。
~・~
「刃筋……ですか?」
「私も素人なので、それが確実だとは言えないが」
指揮所でも、セントーA及び「カッターキック」が生み出した現象への考察が行われていた。
その中でしげるが提唱したのが「刃筋の問題」である。
「素人はいきなり剣を振り回しても、それで対象を斬ることが出来るかというとそれは無謀な話という事だな。接触面に効果的な角度で刃筋を立てないと、まず斬れないと……はて? 私はこの情報を何から入手したのか?」
さらに胡乱さが増すことを言い出したしげるであったが、困ったことに「刃筋の問題」説は、圧倒的な説得力を持っていた。
それでも南は義務的に反論する。
「ですが……昭君ですよ? 普段は得物持ち歩きませんしステゴロですが、喧嘩の流れで刃物持ったこともあるでしょうし」
昭の振るう暴力については、恐らく南が一番詳しい。だからこそ昭を単純に「素人」と見做すことに違和感を感じたのだ。
しかしこれが義務的な半論に収まってしまうのは――
「単純な刀ならそうでしょう。ですが今回は『カッターキック』です。ミスター昭も勝手が違うはず。いや『カッターキック』に馴染んでいる人類は存在しません」
プラカスの指摘が正鵠を射すぎている。
やはり「カッターキック」の装備は最初から無理があったと考えるべきだろう。しかし「手」が無いセントーAに刃物を持たせるのに他に方法があるかと考えると……
「相手が『カッターキック』の装備を傍観したのは、それが有効な攻撃に結び付かないと判断したせいなのかも……
何かを誤魔化すように南がそんなことを口にした。「カッターキック」装備までの動きを思い起こして、改めてムラシンガーの動きに違和感を覚えたのだろう。
しげるも同じ違和感を覚えていたのか、すぐに南に答える。
「私が思うに、あれは我が息子の模倣なのではないかな?」
「
「そう。あれだ。相手にも全力を出させようといった……所謂喧嘩の流儀だな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます