「レオサークル」か「カッターキック」か
「ミスター昭! いったん退いてください。敵を倒すには武器が必要です」
プラカスが昭に呼びかけた。単に「退け」と命じるだけではなく「倒す」という動詞を混ぜたことは巧みな技と言えるだろう。
膠着状態になっていることもあって、昭は殊の外素直に応じた。
「武器だぁ?」
「ええ。準備していたんです。まずは格納庫前まで退いてください」
「簡単に言うけどよぉ」
そう言いながらも正面にムラシンガーを見据えたまま、セントーAは格納庫前まで大きくバックジャンプする。すぐに対応できたのはスープレックスでの攻撃に見切りをつけていた部分もあるからだろう。
対するムラシンガーは、一瞬追いかけるようなそぶりを見せたが結局その場から動かなかった。本当に殴る以外の攻撃方法、例えば銃のようなものは装備されていないらしい。
それに加えて、ムラシンが合身したとはいえ、どうしてもムラシンガーの動きはセントーAより劣る。昭の戦略に巻き込まれることを忌避する部分もあるに違いない。
ムラシンガーが躊躇している間に、格納庫前で膝立ての態勢になっていたセントーA。その右足に謎の機器が取り付けられていた。
金属製の脛当てがまず装備されていた。それだけなら意味のない装備だったのだが、脛当ての横から車軸と思しき棒が一本伸びていた。さほどの長さはない。
そしてその棒の先にはセントーAのボディに沿うような形で、刀が取り付けられている。正確に言うと刀の切っ先だけが車軸の先に取り付けられていると言った方が良いだろう。
しげるが、密かに開発しておくべきだった刀をこの珍妙な武装に流用したらしい。だが、手が無いセントーAに刀を使わせるとなると、この形状になる可能性は無い――とは強弁できないだろう。
厄介なことに、こういった武装の背景にはしげるの「教養」があるからだ。
「――開発名は『レオサークル』だった」
「レオサークル? 『GEAR戦士電童』ですね」
南の言う通り「レオサークル」という言葉の出典は「GEAR戦士電童」だった。
もの凄く簡略に説明するなら、レオサークルとは主役ロボ「電童」が使える「データウェポン」の一つである。要は武器だ。
「電童」というロボットは両前腕と脛に回転する機構を備えており「データウェポン」とはそういった回転する機構を最大限に活用することが出来る武装である。
「レオサークル」はそういった武装の中でも右足にセッティングされる武装であり、回転力を生かしつつ巨大なチャクラムを敵ロボットに投擲する機構を持っていた。
「じゃあ、こいつもそうか」
昭はしげるの説明を聞いて早合点した。
そう。早合点である。
「でも昭君。その武装全然チャクラムじゃないわよ」
南の指摘通りだった。チャクラムとは言ってしまえば円状の刃物だ。刀の切っ先だけではどう転んでもチャクラムにはならない。
「そのチャク……何とかを俺は知らねぇ」
昭がすねたように応じるが、南もそれには同意なのか盛んに頷いている。
「そう。チャクラムもレオサークルの機構を再現するのも、時間が圧倒的に足らなかった。そこで方針は転換されてカッターキックを目指すことにしたのだ」
どこかしら忌々し気に、しげるが追加の説明をする。すぐさま昭が反応した。
「カッターキックだぁ? まんまの名前だな」
「仕方ないのだ、我が息子よ。原典が『カッターキック』という名称なのだから」
しげるの妄言が始まる。それと同時に皆の視線が南へと集まった。
「……『コン・バトラーV』の追加武装の一つよ。確かにアレなら、今付けた装置に似ていると言えなくもないわ」
期待に応えた南もまた、浮かない表情のまま説明する。
「カッターキック」とは南の言う通り「超電磁ロボ コン・バトラーV」の追加武装の一つだ。「コン・バトラーV」は身体の各所に円形の出っ張りがデザインされている。
その出っ張りは有名な「超電磁ヨーヨー」などに使われることもあるのだが、カッターキックもこの出っ張りを利用した武装だ。
踝にデザインされた出っ張りが横に突き出され、さらに出っ張りはその輪郭に刃を突き出す。円形のチェーンソーを思い浮かべれば、恐らくそれが一番近い。
この説明だけでは凶悪な武装のように感じられるかもしれないが、作中の「カッターキック」は実にしょっぱいのである。
コン・バトラーVは元々、かなり果敢にキック攻撃を繰り出すロボットであった。それなのに「カッターキック」はその設置位置から考えても、
――わざと空振りさせるようにキックしなければならない。
という、企画段階からの不手際が窺うことも出来る武装だったのである。しげると南の表情が冴えないのはそれが理由だ。
しかし手が無いセントーAに武装させるとなると他に方法が思いつけない。あるのかもしれないが何より時間が足りなかった。
他に武装する方法を思いつくまでの時間も、実際に武装を作成するための時間も。
何もかも不足していたのだ。
プラカスもそれを理解していた。だから昭に伝える。
「これが精一杯です。あとはミスター昭に任せるしかありません」
「ああ、わかった。クソ親父にしてはよくやった方だと思うしよ」
セントーAが立ち上がる。
準備万端とは言えないが、昭の気力は十分だった。
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