昭の罠が敵を断つ

 しげるの主張には説得力があった。昭が戦う事に愉しみを感じているのは明白だからだ。しかしそこで篁が声を上げた。


「おっちゃん、昭はそんなこと考えないよ」


 そう言われてみれば、昭は戦いを愉しんではいるが、相手に全力を出させようとは考えないような気もしてくる。

 何より、ずっと昭の近くにいた篁の主張だ。ネグレクト状態のしげるがわかったようなことを言っているだけかもしれない。


 何しろ、しげるの主張は「教養」が影響を及ぼしている可能性は高いのだから。


 では、このやり取りはどういう形で着地すれば良いのか。そもそも何の話だったかというと――


「敵の狙いについては、まだ決めつけられないという事になります。戦いの全てがヒントになるでしょう」


 プラカスが無難にまとめた。

 話の発端はムラシンガーの動きに対する違和感であったので、一区切りをつける上でもプラカスのまとめ方は正しいと言える。


 しかし、そういった賢明さの中にも、プラカスの「引き分け再試合になるだろう」という見込みが含まれていることは確かだ。

 結果、指揮所でも方針は決まらぬままセントーAの戦いを見守るしかない。


               ~・~


 ムラシンガーの攻撃をいなすのではなく、受け止めることが多くなっているセントーA。右足に装備された「カッターキック」はセントーAから敏捷さを失わせた事は確実だ。


 ムラシンガーもそれを感じたのだろう。してやったり、の笑顔を見せながら、さっきまでとは違い攻撃の手数が多くなっている。いや“足”数もだ。

 今までは滅多に見せなかった蹴り技が多くなっていた。


 セントーAはそういった攻撃を丁寧に受け止めていた。攻撃についても同じ方針らしく、腕での攻撃と同じ比率で足での攻撃も行っていた。

 その中には当然「カッターキック」での攻撃も含まれている。


 だが「カッターキック」での攻撃は、やはり「刃筋を立てる」ことが難しいらしく一向に形にならない。ムラシンガーに斬り付けて奇音を発せさせること、その後に弾け飛ばすことが精一杯。


 それは殴り合いが煮詰まって、一旦仕切り直しにする時には有効な手段こうげきであるのかもしれない。シューティングゲームのボムと同じような扱いだ。

 確かにそれによってセントーAは粘り強く戦い続けることは出来るのだが――戦い続けても、その先が見えない。


 結局、両者ともひたすら殴り合うだけ。その攻撃はどれも有効なものだとは思えない。これではプラカスだけではなく、誰もが再試合の可能性を脳裏に浮かべる事だろう。


「手が……やはり必要なんですね」


 南がつい零してしまう。そんな当たり前のことを。刃の付いた武器がそれほど欲しくなったという事だ。


 サヒフォンがこっそりと篁の様子を窺う。以前、昭がサヒフォンに「手を貸せ」と要求していたことを思い出したのだろう。

 当然、篁も思い出しているはずだが……


「ん?」


 視線に気付いた篁がサヒフォンに目を向けた。慌てて視線を逸らすサヒフォン。

「聞こえてなかったのかな?」と考えていることがよくわかる表情を浮かべている。


「そうだな。刃物に関しては何とかなるとしてマニュピレーターも開発しなければならんか」


 そんな二人の様子には気付かなかったしげるが南の声に応じた。むしろ今まで、何故開発しなかったのか? と言われるようなことを言い出す。


「開発は進めていますよ。私が日本にやってきた頃からすでに」


 プラカスにぬかりはなかった。どうやら所長に就任すると同時に指示を出していたらしい。もっとも今のセントーAを見れば改善すべき個所は明らか過ぎなわけだが。


「なんと! それで進捗は?」


 しげるが流れのままにプラカスに尋ねる。


「五本指でなくてもいいわけです。簡略化を前提に開発を進めるとしても――」

「ブライガー方式だな」


 「銀河旋風ブライガー」の主役ロボ「ブライガー」は五本指ではない。


「――どうしてもクリアできない問題がありまして」

「ほう」

「待ってください。昭君が何か仕掛けようとしてます」


 南が割り込んできた。全員がモニターに目を向ける。すると確かに、今までの殴り合いと違って両方とも間合いを取って睨み合う形になっていた。

 ムラシンガーが弾け飛ばされたところで、セントーAが追撃せずにその場で腰を落としている。


 ムラシンガーもそれに応じるように腰を落とした。


「何だい? そろそろ飽きちまったのかい?」

「確かにな。お前、手応えがさっぱりだし……この辺りで終わらせるか」

「吠えやがったな」


 挑発しあう昭とムラシン。

 そしてそれは合図だった。


 両者が同時に相手に向かって跳び上がる。そのまま飛び蹴りの態勢で交差するかに思われた――が。

 セントーAのジャンプがそれには及ばない。


 右足の重さに負けて、ジャンプしたは良いが空中で前転してしまう。

 このままではムラシンガーは無防備に晒されたセントーAの背中に向けて、足を叩き込むことが出来る。


 打撃が効果的ではないとしてもバランスを失ったまま落下するとなると、ダメージは無視できない。操縦スペースの昭も無事で済むのかどうか。


 しかしそのタイミングでセントーAの前転速度が上がった。同時に右足を高く掲げる。そのまま「カッターキック」は空中でムラシンガーのボディを捉えることに成功し――


 ――ムラシンガーのボディを切断した。

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