異星人たちの騒めき
こういったサヒフォンの仕草は、コンキリエとコンタクトを取っているのだろう。そこで改めて「学校」という施設について確認したと考えられる。
しかし、どう確認しても「勉強するところではない」という篁の言葉は出てこないに違いない。結局サヒフォンは根を上げたようだ。
「どういうことですか?」
と、ダイレクトに篁に確認してしまう。しかし篁は同じ言葉を繰り返すだけだった。
「だから勉強するところじゃないって」
「そこからわからないんです。勉強しに行ってるんじゃないんですか?」
「だからこれは私と昭は似たようなものだから、全部が全部そういう事にはならないけど――」
そこでテレビはCMに入った。スペシャルにありがちな、間に少しだけ本編を流しておいて、結局長々とCMを流すアレだ。
そのタイミングで篁はぐるりと身体の向きを変え、サヒフォンに向き直る。
「――理系の事は知らないけど、文系でやることって中学と変わらないのよね。二年になって歴史もやるようになったんだけど、まぁ、同じね」
そこでサヒフォンが救いを求めるように昭を見遣る。
そうすると昭も難しい表情を浮かべて、
「それは……そうかも知れねぇ。国語も結局同じことしてる気がする」
「でしょ? でも学校行くのが無駄という気持ちにはならないのよね。それは人それぞれなんだろうけど、私は無駄だとは思っていない。昭も結局そういう事なんじゃないの?」
何とも冷めた物言いではあったが、それだけに篁から伝わってくるのは「問答無用」と言わんばかりの鋼の意志。
昭もそれを感じたのだろう。
「そうだな。理屈はいらないな。俺は俺で学校に行くことが好きなんだよ。役に立つとか立たないとかじゃなくて」
理屈をすっ飛ばして、結論に着陸した感しではあるが、それだけにサヒフォンも反論できない。何しろ二人の主張は論理的では無いからだ。
いや――
そもそもサヒフォンは反論したかったのかどうか。
サヒフォンはただ知りたかったのだろう。地球人が効率的ではない「学校に行く」という活動に拘る理由を。
上を向いたまま、黙り込んでしまうサヒフォン。
その様子を見て、篁が声を掛ける。
「じゃあさ、文化祭に来てみれば? あれはなんだか学校に行く理由が詰まってる気がするのよね、私」
「文化祭……ですか?」
「似たようなこと中学でもやるけどね。でもあれ、高校はちょっと違うし」
と、言うだけ言って篁は再びテレビに向き直った。
優先順位は揺らがないようだ。あんこを乗せた食パンをもぎゅもぎゅと食べながら、完全に言い捨ててしまっている。
そこで昭がのびてしまったであろう、カップそばの蓋をめくりながら、
「ま、そういうことだ」
と、まとめた。
サヒフォンもまた蓋をめくった。ニンニクの香りが漂う。
~・~
戦闘の検証――具体的に言うなら侵略ロボの調査を進めていたプラカスたちは、驚くべき調査結果に接していた。
それは「侵略ロボが戦闘と同時に、調査を進めている」という、何とも皮肉な発見であったのだ。
具体的に言うなら、セントーAが侵略ロボにスープレックスを決めたその時である。形があやふやになった侵略ロボは、同時に地球に染みこもうとしていたことが確認された。
染みこもうとしていた理由を推測すると、それはもっとも穏やかなものを探すのなら「調査」という事になる。逆に過激な理由を探すなら「実効支配」を目論んでいる可能性も否定できない。
だがそれは――
「『汎宇宙公明正大共存法』のレギュレーションに引っかかる。地球への影響も大きい。そこで運営が強引に止めた――ということになりますね」
プラカスはそう結論付けた。
戦闘直後は「運営が贔屓したのではないか?」と疑ったプラカスであったが、調査結果を受けて、そのように自らの推測を訂正したようだ。
侵略ロボもまた、そういった「調査」がレギュレーションに引っかかると認識していたに違いない。だがあの時、昭のスープレックスが侵略ロボに強かなダメージを与えていた。
そのために「ルールを守る」を司る機構に変調をきたしたのではないか?
結果、叩きつけられた侵略ロボは戦闘よりも優先して「調査」に取り掛かろうとしてしまった。
――それが最も、先だっての戦いの様子を説明できる。
「では昭の攻撃は本当にあと少しだったわけか。我が息子ながら、大したものだな。何か褒美をやらねば。クローバーの……」
「そうなると、やはり運営の贔屓の可能性を考えたくなりますが」
しげるの言うように勝利直前で水を差されたと考えてしまうと、やはりその可能性は無視できない。
しかし今はそれよりも緊急の案件があった。
「――侵略ロボは相模湾に潜んで何を『調査』していたのでしょうか?」
プラカスがその案件を声に出す。
戦闘の後、再び海に潜った侵略ロボ。そこまでは視認されていた。また海中の様子に関しても、潜航艇から視認されている。
それらをつなぎ合わせると、侵略ロボはそのまま相模湾を下へ下へと潜っていった――と推測されていた。
当然、深海に至ってから改めて太平洋に向かう可能性も否定できないが、侵略ロボがそこまで手間をかける理由を想定できない。
地球人に「太平洋に向かう」という動きを見られたとしても、問題があるようには思えない。
何しろ侵略ロボは空を飛べるのである。わざわざ海中を進むのはどう考えても不合理なのだ。
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