不信感と信頼と

 こうして再び、再試合に持ち込まれた侵略ロボとの戦い。そういった展開に泣き言言っても始まらないので、プラカスはすぐさま情報収集とその整理をするように指示を出した。


 情報収集というよりは侵略ロボの残した痕跡、それを一切合切を総ざらいせよとの指示だ。その様子はまるで東京地検特捜部。あるいはナニワ金融道の如き容赦の無さ。


 演習場の地面を全てはぎ取っていくかのような徹底ぶりだ。


「……まるで遺跡発掘だな」


 その様子を見ながら、しげるが独り言ちた。確かに地面を薄く削ってゆく様子は遺跡発掘に通じる部分があることは確かだ。

 今回の侵略ロボが軟体であるので、全く無益だとも思えないが……


「こういった作業に役立つ機材は必要になるでしょう。その要求を通すためにも必要な作業です」


 数理屋のくせに随分すれたことを言い出すプラカス。単純な数理屋では組織の運営もままなら無いだろうから、これはこれで頼もしくはある。

 そしてプラカスはそれ以上の考えも持っていた。


「ミスター七津角はこれから戦闘の公式発表をお願いすることになります。ですから、そういったことも含めてアピールをお願いします。資金はあるのですが、どういった技術が必要なのかは未だ不鮮明な部分が多い。広く浅くでお願いします」

「うむ。私のアピール力に任せたまえ」


 確実に人選ミスであるように見えるが、しげるの胡乱さを知らしめれば自発的に声を上げる研究者や企業が増える可能性が高い。

 ――とプラカスは計算しているのかもしれない。


 周囲が忙しくなってゆく中で、二人は指揮所にとどまり、しばらくの間話し込んでいた。が、ふとプラカスの雰囲気が変わった。

 漂わせていたスパイスの香りが変わったというべきか。


「――ミスター七津角。あなたは私よりもセントーAの声を聞くことが出来る。現在、セントーAは何か訴えたりはしていませんか?」


 セントーAの声を聞けるとしても各個人で強弱はある。しげるは昭に次いで「高感度」だとされていた。


「ん? ……いや、戦いが終わった直後だしな。そういった声は聞こえなかったが――何かあったのか?」

。そうですね過去の話になるかもしれませんが、未来の話になるかもしれません」


 どこを見つめているのかわからない瞳のまま、プラカスは続ける。


「今回の再試合の裁定、おかしなものを感じませんか? 侵略者に対して有利に裁定しているように私は感じました」


 つまり運営が侵略側を贔屓している、という事らしい。


「確かに。我々は勝つ寸前だった。それは私も認めよう」


 しげるも同じように感じていたのかもしれない。すぐプラカスに賛同した。

 それに勢いづいたプラカスの瞳の焦点が結ばれる。


「では――」

「しかしこうとも言える。我々は勝ちきれなかった、と」


 あまりに前向きなしげるの発言は、プラカスの意表を突くことに成功したようだ。一瞬目を見開くと、そのまま穏やかな笑みを浮かべた。

 なんだかんだ言っても、昭としげるは親子なのだと再認識したのかもしれない。


「だからこそ我々は本気で武器を開発しなければならないのだ! 今度こそ完膚なきまでに勝つ!!」

「カンプ……?」


 ――繰り返しになるが武器開発はしげるの職分には含まれていない。


                ~・~


 その頃、昭はすでに帰還中であった。文化祭準備期間はとにかく忙しいのである。穿ったこと言えば忙しいと思い込んでいる。あるいは忙しいことさえ愉しみに含まれている。


 あろうことか昭は高校生活を満喫しようとしていた、というわけだ。


「勝ち方もわかったしな。今度は最初から投げてやる」


 制服に着替えながら、そんなことをわめく昭。居住性の低いヘリコプターの中であっても、昭のバランス感覚の前では障害にならないようだ。

 制服を着て「高校生」であると主張する方が重要らしい。


「何だか言い訳してるみたいに聞こえるけど、確かに次は勝てそうね」


 その「高校生」を学校まで送るという仕事を受け持った南が、ペイロードに備え付けられた椅子に、全力で身体を預けながら相手をする。

 もっとも飛行場に着く頃には、校門が締まる寸前といったあたりだろう。


 とは言っても急いで地元に戻ることは無駄ではない。矢立組のシマ内であれば防諜もやりやすいというものだ。


「ああ、そうだ。そっちに何か伝手はないか? いや先に俺の伝手を探る方が先か……」

「何の事?」


 制服に着替え終えたところで、昭は学校で起きたことを思い出したようだ。

 躊躇いはあるものの、結局そばつゆを都合する伝手は無いのかと南に確認する。


「はぁ~なるほどね。つゆを温めれば済む話と割り切っても、あまり遠くじゃ意味が無いわ。学校の近場と考えると……」

「伝手があるのか?」

「そんなもの、これからいくらでも作れるわ」


 やはり、こういったシノギの方が本業であるらしい。南の脳内は自動的に絵図面を組み立ててしまったようだ。


「それにしても、どれだけ必要になるのか見当がつかないわね。それに予算は?」

「わかった。それは明日にでも伝える」


 これはもう南に任せてしまった方が良いだろうと昭は判断した。つゆを学校に運ぶ手間を考えればあしを使える南を巻き込んだ方が手間が省ける。

 それに南に確認したいことはもう一つあった。


「それで別の話に――なると思うんだが『亞羅刃罵』ってチームのことわからないか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る