理屈倒れが迂闊さを呼ぶ
「ああ、確かにそういった表記はありますね。アストロガンガーはその“生きている金属”によって作られた、と」
先ほどの検索結果が残っていたのだろう。タブレットを片手で持ったプラカスがしげるのフォローをする。
そのフォローを受けてしげるはウムウムと頷いた。
「そう。確かそんな設定だったはずだ」
頷いた割には、あやふやなしげるである。
「え? よくわからないと仰ってましたよね? それでも“生きている金属”の事はご存じだったんですか?」
そして南は、そんなしげるを咎めるどころか、純粋に感心したような面持ちで確認してきた。
「その辺りは君。『教養』の範疇だよ」
だからこそ、しげるは調子に乗った。日頃の「教養」理論に裏付けが為されたようで気分が良いのだろう。そしてさらに調子に乗った。
「新たな異星人もそういった『教養』を身につけた。とは言ってもカタログを眺めただけなのだろう。そこで“生きている金属”という表記を見つけ、それを利用することを思いついた。新たな異星人の母星が“生きている金属”を生成するのに適した環境を持っていた、とも考えられるな」
それはプラカスの推測に乗っかっただけの発言であったが、それだけに一定の説得力を持っていた。
プラカス自身も思うところがあったのだろう。深く頷いている。
しかし、次にプラカスが指摘したのは清々しいほど現実を見据えたものだった。
「――では現在もあのロボットには異星人が融合しているわけですね」
今までの推測だとそういう事になる。今も指揮所には「ベデェン」「ノイィィン」と気合が抜ける打撃音が伝えられていた。
それは「生きている金属」という言葉から連想される、柔らかさを感じさせる音だ。
これがアニメなら確実にSEが仕事をしていない。もしくは作家性出し過ぎで暴走した監督の仕業だ。
「……もしかしたら、新しい異星人は最初から間違っていたのでは?」
南がそんなことを口にした。
つまり「アストロガンガーを参考にしたこと自体が間違っているのではないか」と。
そこから母星の環境に甘え、簡単に済ませ過ぎたのではないか――まで推測を進めると、それはそれで都合の良すぎる想像になるが、実際侵略ロボはどうやってセントーAに勝つつもりなのかがさっぱり見えない。
確かに防御の面ではセントーAの攻撃にも動じるところは無いようだが……
「――これは引き分け狙いでしょうね」
プラカスがモニターを見ながらそう告げた。
対サヒフォン戦でも生じた、一定の時間が経過すると「汎宇宙公明正大共存法」の運営が戦闘停止を申し渡してくる。
そこから、再試合の流れになるわけだ。
「となると速攻で片を付けてしまっても良いだろう。幸い、剣は作ってある」
相手が軟体であっても、斬撃であれば効果を及ぼすはずだ。この際、職分を越えてロマンに走ったしげるを咎めることは後回しでも良い。
だが、それでも問題があった。
「しかし……後から武装の変更は可能なのでしょうか?」
その辺りのレギュレーションがはっきりしない。剣をどうにかしてセントーAに届けた瞬間に「反則負け」と判定されれば目も当てられないからだ。
さすがに反則負けで地球が侵略されるという展開はごめん被りたい。
そこですかさず南が動いた。
「あ、サヒフォンくん? え? ええ、相手がわかっているのに何故確認するのか、とかは後で昭君にでも聞いて。質問があるんだけど」
サヒフォンに直接確認するという、ある意味では反則スレスレとも思える手段を南は選んだのだ。だが一か八かではない。サヒフォンは「決闘法」の速やかな施行を望んでるきらいがあるので、そこに南は賭けたのだろう。
そしてスマホの向こうのサヒフォンは無下に断ったりせず、南の質問をしっかりと受け付けているようだ。しばらくの間、指揮所では生唾を飲み込むような時間が経過する。
「うん。うん……わかった。ありがとう。知ってるだろうけど、今戦ってる最中だからお礼は後でね。ラーメン店を……え? 二郎に行ってみたい?」
最後に不穏な展開になったが、どうやら色よい答えが返ってきたようだ。南は笑みを浮かべている。
「大丈夫みたいです。地球で戦う以上、そういったアドバンテージはあると。何か不都合があってもいきなり『反則負け』にはならないって」
「ようし。では早速射出の準備を――」
剣が空を飛んでセントーAの元に届けられる。あるいはセントーAが射出された剣をダイレクトに掴むなんてことも……
「そうです。セントーAには手が無い。これでは剣の使いようがない」
プラカスは無慈悲にその致命的な問題を指摘した。つまり、勝手に剣を作っていたしげるの罪はますます重くなるという事である。
~・~
『――ミスター昭。こういった事情なので我々も引き分け再試合を狙う事がベターだと判断した。敵も情報収集に努めているのだろう。これ以上、情報を与えることは無い。まずは離れてくれ』
プラカスが昭に告げた。
前の戦いでは連絡も出来なかった事を考えると、これは確かな進歩と言える。
しかし昭は昭である。
戦うのをやめろと言われて、やめるような男ではない。
それにこの状況でも侵略ロボにダメージを与える手段を、昭は思いついていたのだ。
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