ガガガガガガーンと

「待ってください。相手が相模湾に潜んでいたかどうかはわからないでしょう? ずっと海中を航行していたのか知れない。それで相模湾が思ったよりも水深があったから、ギリギリまで海中を進むことが出来た――そういう事かもしれません」


 そこで何とも説得力のある主張と共に、南が割り込んできた。空中を見上げていたプラカスがそれを聞いて、視線を元に戻す。


「――確かに。その可能性の方が高い。日本政府に連絡を。相模湾の調査を依頼してください。推論の前に調査を試みるべきでした」


 そのままプラカスは職員を調査班に組み込み、仕事を割り振ってゆく。それがプラカスの本来の仕事だ。


 現在、職員たちがセントーAのハンガーに隣接した屋内で仕事ができるのもプラカスの仕事によるもの。演習場全体をカバーできるように調査機器を設置したので、指揮所を野ざらしにする必要もなくなっている。


 だからこそ現在、セントーAの戦闘のモニタリングと、侵略ロボの調査を同時に行う事が可能になっているわけだ。


「侵略ロボの行動調査に関しては一旦切り離しましょう。そもそも人類われわれは地球に来た時期さえわからない」


 諦観とも言えるプラカスの指摘によって、南を含めた職員たちも気持ちの切り替えに成功する。

 すると次に気をかけるべきは――


 ベヨォン……ニャヨォン……


 と、気合が抜ける打撃音を響かせる、巨大ロボ同士の殴り合いだ。

 昭は結局、殴りかかる以外の選択肢を思いつけなかったらしい。ただひたすらに殴り続けていた。


 侵略ロボも選択肢は多くないようだ。殴られながら、同じようにセントーAに殴りかかる。昭も最初は丁寧にそれを躱していたが――


 ボヨォオオン……


 と、攻撃を受けても気合の抜ける音が発生するだけ。セントーAに深刻なダメージが生じるわけでは無い。そのデータは脇の下の収集機器からも数字付きで送られてきている。ボディが僅かに歪んでいくという事も無いようだ。


 当然、昭にも何らダメージが無い。

 ただあまりの手ごたえの無さに、先に昭の精神が追い詰められる可能性はある。


「姿を見たときには『アストロガンガー』を思い出していたんだがな」


 戦いは、しげるをして戸惑わせる展開であったようだ。首を捻りながら、そんなことを言い出す。


「『アストロガンガー』――ですか? 私も名前しか聞いたことはありませんが」

「私も詳しくは知らない。何度かテレビに流れていたものを見た記憶があるだけだな。後からきちんと確認しなかったのは……思い返せば『マジンガーZ』への遠慮というか忖度があったせいなのだろう」


 同じ教養の持ち主である南が相手をすると、しげるは平常運転でおかしなことを言い出した。

 そして悲しいかな、南はそんなしげるの発言にあたりをつけることが可能だったのである。


「やっぱり、ロボットに乗る、という発想の始まりについての問題ですか?」

「うむ。その発想は『マジンガーZ』こそが始まりだと信じたい自分がいる。しかしアストロガンガーにおいても、理屈で言えば同じことをしている」


 確かにアストロガンガーは少年がガンガーというロボットに融合するというプロセスを採用している。そのプロセスを「搭乗する」と広義に捉えることは不可能では無いだろう。


 しかし「ロボットに」という言葉の印象通りの様子を描いてみせたのは間違いなく「マジンガーZ」が最初である。


 その辺りの問題が、しげるをナーバスにしてしまっているようだ。気持ちの悪い話だが。


「では、あのロボットにも異星人が融合しているという事になりますね」


 タブレットで検索し「アストロガンガー」の概略を把握したプラカスが実務的な部分を確認してくる。

 しかし南は、プラカスのそういった反応に戸惑った。


「いえ別に、無理やり『アストロガンガー』を現実に当てはめなくても良いと思いますけど……」

「しかし異星人はこういったロボットアニメを参考にしている事は間違いない。いや、異星人とした方が正確ですね」


 断言するプラカス。思わず黙り込む南。


「前の戦いでも、侵略者が参考にしたのは間違いなく『鉄人28号』でしょう。そこから推測するに宇宙には巨大ロボという概念をまず持っていない。すると、どうしても地球の――というか日本の発想の後追いをしなければなくなる。サヒフォンの星が『鉄人28号』を選んだのは、まだ宇宙の常識内で収まる運用が『鉄人28号』であれば出来ていたからでは?」


 プラカスが研究を発表するかのように、つらつらと並びたてた。


「つまり日本の発想が宇宙においても異質、という事です。その理由を私は考え続けたい」

「それは……確かに必要なことかもしれませんけど」


 いきなり宣言された南。しかし何とも返答できない。

 そこでしげるが声を上げた。


「なるほど。『鉄人28号』で失敗したから、新たに侵略してきた異星人は別の作品をモチーフに選んだと。それが『アストロガンガー』になったのは……恐らく“生きている金属”」

「生きている金属?」


 しげるの「教養」も時には役に立つ。南はしげるの発言を膨らませるように、問いただした。

 実際、南は生きている金属についても興味がある。

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