南から来たロボット
「いやいや私は、無いものをあるというような愚か者ではないぞ」
「自覚が無いバカだ」
「まだ名称は決まっていないが、昭専用移動機器の試作機は、それに積んである」
「え?」
と、そこで改めてパーティションされたヘリコプターのペイロードを南が見渡すと、確かにそれっぽい「物体」にカバーがかけられていた。
他にも通信機器が積み込まれていたために気付かなかったが、その「物体」はカバー越しでも異様な雰囲気を放っている。
乗り心地など最初から無視されているヘリコプターの中で、昭は軽々と動き「物体」からカバーをはぎ取ってしまった。
そうやって晒された「物体」は――
「何だこりゃ? バイクを二つ並べて……で、その間に座るのか? 車とバイクの合いの子みたいだな。ハンドルはバイクみたいだけど」
その物体は昭が言ったとおりの姿形をしていた。タイヤは四つあるが基本的に一人乗りであるようで、昭の言うような場所に一つだけ座席。
他には腰を下せるようなスペースが無い。
既存の乗り物で似たようなものを探すなら「トライク」という事になるだろう。ハンドル部分は確かにバイクと変わらないように見えるからだ。
南にしてみれば「バイクを二つ並べて」という部分が最も引っかかる部分だ。
そのバイク部分が二つに分かれてセントーAの両脇に収まる姿を想像すると、それは確かにしげるの想定通りという事になる。
ここで問題になるのは、しげるが相変わらず好き勝手しているという部分だろう。何しろこんな「趣味の産物」を形にしてしまっているのだから。
プリカスは一体何をしているのか? というのが南の本音である。しげるの好き勝手が許されると非常に問題があるのだ。
何しろ南自身がそういった「趣味の産物」に心を奪われそうになっている。
「わかったわかった。あとで遊んでやるから、クソ親父は黙れ」
その点、昭は躊躇なくしげるを切り捨てることが出来た。何なら、しげるを切り捨てることが最優先事項とも思える切符も良さである。
「このヘリからは普通に降りる。そのバイクもどきで勝手に遊んでろ。セントーAに乗り込むための足場は――」
『無論、そのままです。やはり余裕があるようですね。宇宙からの飛来物に関してはまだ視認できていないようです』
そこでプリカスが割り込んできた。昭の疑問に答えながら、現状を具体的に説明して見せた。こうなると、しげるも大人しくならざるを得ないようだ。
無論、昭とプリカスはすでにお互いを認識している。
「そうか。それなら問題は無いな。セントーAが……ああ、俺にも聞こえてきた」
『では、よろしくお願いする』
お互いにセントーAの声が聞こえる者同士。こうなると話が早い。
セントーAが発する次なる戦いへの
しかし、それにも個人個人で差異があるようで――
「それにしても宇宙を見張ってるのか。それは大変そうだな」
『大変だが仕方ない部分もある。レーダーをはじめとした観測機器は役に立たないと考えるしかない。そうなると頼りは光学――つまり目で確認するしかなくなってしまう』
「いやそれは何となくわかるんだけどな」
『何か問題が?』
そこでプリカスも、昭が自分とは違うセントーAの声を聞いている可能性に気付いた。昭もその違いに気付いたが……
「いや……どうにもわかんないな。『
『そうですか……では我々のやることは変わらない、と割り切ってしまいましょう。そもそも出来ることは多くは無いです』
昭のはっきりとしない説明を受けて、プリカスは思い切った判断を下す。そしてそれは何とも昭好みであった。
「そうだな! とにかく喧嘩相手が来るまでに間に合いそうなんだしな。何の問題もない!」
『そういう事です』
昭とプリカスの相性は良いのかもしれない――
~・~
そして昭の言うように、戦闘準備は整った。
足場を登って、今までとは違い余裕をもってセントーAの操縦スペースに乗り込んだ昭。セントーAはその昭を抱きかかえるように腹部の装甲を螺旋に展開させる。
脇の下には情報収集機器が設置されているが、それが動きを阻害するようなことも無いようだ。そして情報収集も問題なく行われている。
昭は視界の確保と、プリカスとの連絡が出来ることを指揮所に告げ、後は異星人を待ち受けるだけになった。
そうなると地球人の視線は自然と上を向くことになる。
何しろサヒフォンは
しかし――である。
上を見上げていたセントーAの態勢が変わった。それはつまり操縦スペースの昭の態勢が変わったということ。
昭は空を見上げることをやめて――南を見つめ始めていた。
『ミスター昭?』
そんなセントーAの動きに気付いたプリカスが昭に呼びかけた。
すると昭は、
「……来たぜ」
と、呟いた。
そしてその声に応えるように、南の空に異変が起こる。
何かが浮かんでいた。――いや何かが飛んでいる。飛んでセントーAに近付いてきていた。
近付くにつれ、その何かは人型をしていることが判明する。
間違いなくそれは次の侵略者の操るロボット。
そう――新たなる侵略ロボであった。
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