BGMにもサビはある
「俺を、か」
六十苅はそういったつもりは無くとも、昭と喧嘩をしたという過去は確かにステータスになっている。だから昭にちょっかいをかけようとする動きがあるのは別段珍しくは無いのだ。
ただ、昭の常識外れぶりが知れ渡っている現在、それでも昭にちょっかいをかけようというのは控えめに言っても正気を疑うレベルであることも間違いない。
さらに言うなら「
この「新顔がチームに所属している」という要素が、思った以上に重要なことだと昭は気付いた。
当然昭は、自分にちょっかいをかけてきそうな相手として、各国の諜報員の可能性を思いついていた。
しかしそうなるとわざわざ「亞羅刃罵」に所属する理由がわからない。
「……どんな奴かはわかるのか?」
そこで昭は外堀を埋めるように、六十苅に尋ねてみる。六十苅は昭の反応があるまでずっと待っていたらしく、すぐに応じる。
「ああ、女だ」
「女ぁ!?」
「ああ、とにかく
「その辺りはどうでも良いなぁ。で、強いんだな?」
「強いんだろうよ。亞羅刃罵は乗っ取られたようなようなものらしい」
つまりは亞羅刃罵の顔役を喧嘩で倒してしまったという事なのだろう。そういういきさつがあるなら、その女も普通の――というのもおかしな話だが――跳ね返りと考えるのが妥当なところだ。
しかしそうなると、昭がわざわざ関係してやる義理もない。そのために昭は六十苅の意図が見えなくなり、首を捻ることになった。その辺りの道理を六十苅がわからないとも思えないからである。
そういった昭の反応から、六十苅も昭が何故戸惑っているのか察することが出来たようだ。続けてこう指摘した。
「――
「あ」
その六十苅の指摘は確かに昭の意表を突いていた。そして六十苅の危惧ももっともなことだと瞬時にして理解する。
「……それは……ありそうだな。賊では無いんだろうけど、単車や
「そこまではわからん。そこまで大きなチームでは無かったしな。ただ使えると考えた方が良いんだろう」
「そうか……」
文化祭を邪魔されるのは昭としても面白くない。学校は何とか卒業したいし、女バスへの義理もある。
となると先に潰してしまうか、南に対処を依頼するか――
そこまで考えたところで、昭はふと思いついたことを尋ねてみる。
「それでその新顔の名前は?」
「ああ、言ってなかったか。ムラジンと呼ばれているようだ」
「ムラジン、ね」
おかしな響きだがこっちの界隈ではおかしなあだ名が溢れかえっている。むしろ特殊であるからこそ区別も付くというものだ。
それにあだ名とは言え、名前がはっきりしたことで、昭の闘争心に火が付いたらしい。
「それなら――」
と、何かしらを言いかけた昭のスマホがポケットで震える。それと同時にメロディが流れ始めた。曲名は「蒼き流星になって」のサビ部分である。
しげるのこだわりだが、昭はこだわりが無いので設定を放置したままであった。
ただこの呼び出しメロディは――
「すまん! 富士山まで行かなくちゃならん!」
「ああ、あっちの呼び出しか。わかった。気をつけろよ」
意外にさわやかな六十苅の笑顔に送られて、昭は学校を飛び出した。
~・~
ある程度は段取りが決まっていたのだろう。学校を飛び出した昭を矢立組の車が拾い上げた。当然、道交法は無視の構えだ。何しろ掛かっているのは地球の運命なのだから。
むしろ警察が先導する中で、黒塗りの乗用車が西にある飛行場に向けて疾走する。
そう。実は昭が住むこの町は近くに飛行場があった。そうなると先だってのしげるの強制着陸にも、どこまで意味があるのか不鮮明になってしまう。
だが、それはもう済んだ話だ。飛行場で待ち受けていたのは、あの時と同型のヘリコプターであり、車の中で同乗していた南と共に、昭はヘリコプターに乗り込んだ。
ここでも南の立場があやふやなままであるのだが、防諜のためにいち早く情報を入手する必要があるのは確かなことである。そうとなれば現場に赴くのが最適解と言えるだろう。
さらにヘリコプターのペイロードとは――
『我が息子よ! しっかり防護服に着替えておけ。何しろこれからぶっつけ本番――う~ん、実にいい響きだな――つまりぶっつけ本番でお前にはセントーAに搭乗してもらう!』
胡乱なしげると通信が繋がっていた。それも専用通信回線で。
「やかましい」
手早く着替えを済ませた昭が、しげるの世迷い事をスルーする。
「そうですよ七津角さん。まだ余裕があるようですから、そんなことはしなくて良いでしょう? 第一、問題のバイクみたいな物がありません」
そして南が順序だってしげるを否定した。
可哀そうな話だが、南の役割として「しげるの制御」が含まれてしまっている。
だから「南が現場に赴くことは当然」という雰囲気が出来てしまっているのだ。
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