搭乗シークエンスは譲れない

 話を戻そう。

 今までの説明を前提として、しげるの「バイク」という言葉に繋げてみる。


 洸はライディーンに搭乗する際、専用のオートバイ「スパーカー」に乗り、そのままスパーカーごと大きくジャンプして、身一つでライディーンの額にある乗り込み口から「フェードイン」して操縦席に向かうと設定されていた。


 この時、前半のシークエンスの描き方では、


 ――「スパーカーはどこに行ったのか?」


 と、疑問を覚えた視聴者が多数いたようだ。そのため後半で描かれたシークエンスでは、ライディーンの腰辺りにしっかり収納されるスパーカーも描かれることとなったわけである。


 それを知らないはずのないしげるが、今の腹部が解放されているセントーAを確認して、そういうことを考える可能性は大いにあった。

 しかし、そうなるとしげるはセントーAの腹部にバイクを放り込んでしまえと言っていることになるわけだが……


 それはいくら何でも無茶だ。

 

 南はそう考えたし、その考え方と情報機器の関連性が見えてこない。

 プラカスは状況を理解しつつ、それを翻訳するようにして、しげるに南の疑問点を具体的な形にして伝える。


 すると、すぐさましげるは答えた。


「ああ、なるほど! だからバイクが情報機器なのだよ! これで疑問はすべて氷解するはずだ!」

「はぁ?」


 しげるは、これで問題ないだろう、と言わんばかりの態度ではあったが、とっさに理解できるものではない。

 だが、南は理解への糸口は掴んでしまっていた。


 バイクが情報機器という事は、最終的にバイクが脇の下に収まるという形になるのだろう。そうすればバイクをセントーAの腹部に放り込むという形からは逃れることが出来る。


 しかし、しげるの構想がそれで正しいとした場合、昭は一体どうなるのか?


「だからバイクはジャンプの途中で、二つに分かれるわけだな。そうなると昭は自由になるから、そのまま操縦スペースに着地すればいい」


 実の息子に向けて言える言葉ではない。だが、そもそもしげるは昭を改造してしまっているのである。今更、そのような倫理観をしげるに期待する事自体が無駄であろう。


 それに「改造されている」という事を思い出してしまえば、しげるが想定する無茶苦茶な搭乗シークエンスにも実現性があるように感じてしまう南だった。

 だがそれでも、まだまだ無理が残っていた。


「……色々問題はありますが、そもそもバイクがそこまで高くジャンプできますか?」

「そこはバイクの馬力の問題だろう。それに、それ用の斜面を形成してしまえばいい」

「でしたら、そういう手間は他のところに回した方が良いのでは? 何よりライディーンに魂を惹かれたままの七津角さんでは……」


 何しろライディーンに魂を惹かれたしげるは、セントーAを間違えて組み上げるという大ポカをやらかしている。南がしげるの思い付き全てに不信感を抱くのは当然だろう。


「では、どういう搭乗シークエンスが良いというのか? あのセントーAの形状だぞ。マジンガーは両機とも参考にならないし、グレンダイザーもそうだ。合体する機体はそもそも無理な話だ。そうなると参考になるのはメカンダーロボ――」

「確かにメカンダーロボは安全に運用できるかもしれませんが、問題はそこでは無くてですね」


 ちなみにメカンダーロボはパイロットが搭乗すると、それが合図になって宇宙からミサイルが降ってくるという設定であり、それに比べれば確かに安全に運用できるだろう。


 だが言うまでもないことだが、それは極端すぎる例だ。それに全く建設的ではない。


「バイク――というのは問題がありますが、確かにミスター昭用の移動機器は必要になるでしょう」


 しげると南の不毛な言い争いを傍観していたプリカスが、出し抜けに声を発した。


「ミスター昭がこちらに常駐してくれれば一番なのですが、それは出来ないと拒否されています。それならミスター昭用の移動機器は必要になってくるでしょう」

「う~む、確かにそれはそうだな。古来、車に乗り込んで、そこから登場シークエンスに繋げる作品も多々あることだしな。ダイターンにダイモス……」


 しげるの歴史は浅い。


「それに情報機器の機能を持たせることも有用です。ただ、それとセントーAに取りける情報機器を同じ機器で収めようとする発想は異様に過ぎます。ペアリング出来ればそれで済む」

「しかしだなぁ」

「あ、あの、それならセントーAを他の場所に移動させることが出来ないんでしょうか? 私どもとしては、その方が助かるのですが」


 プリカスとしげるの議論に南が割り込んだ。事実上、昭とセントーAの情報統制を行っている南としては、この二つが近い場所で固まっていてくれた方が、何よりも効率的だ。


 それに対してプリカスは感情の見えない半開きの目を南へ向けた。


「戦う場所の整備は何とかなるかもしれませんが――セントーAがこの場所から動きたがらないのです。私はそう感じるのです」

「それは確かに。セントーAもロボット基地の銀座、静岡に愛着があるのだろう」


 しげるの妄言はいつもの事として。

 それでも、この二人はセントーAの声が聞こえるという点で確かにであるのだ。


 南はそれを強く感じる事になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る