ライディーンに魂を惹かれたものたち

 そうやって選ばれたのがプラカスである。第一次調査でプラカスを見出せたことは幸運と呼べるのかもしれない。適正についてはまだ未知数ではあるが、何よりプラカス自身が組織を運営することに魅力を感じてくれたことが大きかったのだ。


 そういった条件が重なって、プラカスは積極的にセントーAの運営に参加する運びとなったわけである。


 プラカスの年齢は五十三歳。それよりも十歳ほどは若く見える容姿で、それは黒々とした口髭のせいかもしれない。腫れぼったい瞼の下の瞳は黒々としており、目を見開くとかなり大きな目の持ち主であることが窺えた。


 それとスパイスの香気を身に纏っており、それは目に移ることは無いが、プラカス最大の特徴と言えるだろう。


「昭君の戦い方ですか……確かに、こう……やんちゃというか」

という単語はわかりませんが、ニュアンスでわかりますね」


 プラカスは傑物であることは間違いないようで、日本語についてもあっという間に日常会話をこなせるまでに上達していた。

 この辺りも運営者として最適だと言われる所以だ。


「ああ、つまり子供っぽいという事です」

「これは言われてしまったな! 確かに我が息子は、子供っぽい!」


 実はこの場にはしげるもいた。ハゲ頭を光らせながら、いつもの調子で意気軒昂である。事実上の左遷を食らったのだから、もう少し大人しくなるべきなのに。

 プラカスはそんなしげるに向けて、ゆっくりと首を横に振った。


「それが悪いという事ではありません。ミスター昭はそれで立派に結果を残している。むしろ我々はミスター昭が戦いに専念出来るように気を付けるべきです」

「したりしたり。プラカス殿はよくわかっている!」


 そういったしげるの受け答えに、南は頭を抱えそうになった。

 上下関係を大事にする南にとっては、しげるの振る舞いは悪夢そのものと言っても良い。しげるが所長の椅子から降りることになって、一息ついていたのに、これでは状況があまり変わらない。


 いや、悪化していると言ってしまってもいい。

 何しろ、この場に南が呼ばれていること自体が悪夢の続きと言っても良いのだから。


「……それで、情報機器を脇の下に収める事は了解しましたが、そこから七津角さんのおっしゃる『バイク』の意味がよくわからないのですが」


 どうやら情報機器とバイクには関連性があることだけは、ここまでの会議で理解できた南。しかし、そこから先が繋がらない。

 そんな南を、残念そうに見遣るしげるはこう告げた。


「なぜ君がわからないんだ? 昭を乗せるバイクだよ! セントーAに乗り込むために必要になることは自明の理だ!」


 そんな「自明の理」など存在しない。

 しかしながら「教養」の持ち主でもある南は、遺憾ながらしげるの意図を察することは出来ていたのである。


 だがしかし、それは――


「七津角さん。あなたまだ『ライディーン』に魂を惹かれいますね」


 そんな物言いもまた、南が「教養」の影響を隠さなくなっている事の表れであるのだが、それはいったん置く。

 プラカスもまたそれをスルーして、南に向けて「どういうことですか?」と強めに確認する事を優先させた。南を富士演習場ここに呼び寄せたのも、それが理由なのだろう。


「ええとですね。日本には『勇者ライディーン』というアニメがありまして――」


 面倒になった南は、タブレットを持ち出し「ライディーン」を再生した。

 細かく言うなら、搭乗者である「ひびき洸」が「ライディーン」に乗り込む時の一連のシークエンスを再生したわけである。


「あ~、違うぞ。それは富野が監督の時だろ。長浜さんに変わってからだ」

「わかってますよ。先にこっちを見せておかないと混乱すると思って……それに、搭乗シーンの変更に監督はどれほど関わっているのかどうか。あれはオカルトを嫌ったスポンサーの影響があったからで。搭乗シーンは絶対に前半の方が好みですから」


 「勇者ライディーン」は放映途中で富野由悠季(当時・善幸)から長浜忠夫に監督が変更になったという歴史があった。その辺りの事情はおいておいて、スポンサーがオカルトめいた要素をライディーンから排除したいと考えていたことは間違いない。


 この当時日本では超能力者ユリ・ゲラーがブームを起こし、またそれを否定するアンチオカルトの流れもまた激しさを増していた。

 そのため「月の光で石化する」などという設定は、後期ライディーンでは無かったことにされていたりする。


 こういったオカルト排除の流れは、ひびき洸がライディーンに搭乗する時に浮かべる「恍惚な表情」までも排除の流れになったようだ。

 そのため長浜氏が監督に変更になったタイミングで、搭乗シークエンスもまた変更になったというわけである。


 だが当時のファンの中には、恍惚な表情を浮かべる洸に魅入られた者も多数いたことは確かだ。実は「洸」という漢字は放映当時名前に使用することが出来なかった。


 それを使えるように変更することになったのは、当時のファンの熱量の大きさを如実に示すエピソードである。

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