新所長はすでに就任済み
一方、その頃――というほど時刻が揃ってはいないが、富士演習場においても会議が行われていた。
サヒフォンの星からの侵略を退けた後、今一度「エイリアンセントーA」の運用に、しっかりとしたマニュアルが必要になったからである。
何しろ、今までは行き当たりばったり過ぎた。侵略を退けたことは「単なる奇跡」と言っても差し支えない程に。
それに加えて、はじめは肝心のセントーAがおかしな状態だったのだ。何しろ、腕と脚が逆に接続されていたのだから。
しかし戦いの最中、それを強引に修正し、今はかなり「人間らしい」フォルムになっている。手首から先のパーツは失われているが、搭乗者である七津角昭の戦闘スタイルを鑑みれば、それはあまりハンデとは言えないだろう。
何しろ全力で殴るだけなのであるから。
元・セントーA運用責任者、通称「所長」だった七津角しげるは、
「愚地独歩なら喜んで正拳突きをねじ込んでいるだろうよ!」
と、意気揚々と叫ぶような状態なのである。
……そもそもセントーAの腕と脚が逆に取り付けられていたのも、この男のせいであり、いきなり「愚地独歩」という固有名詞が出てくるのも、ざっくり言ってしまえばこういった性質のせいではあるのだ。
しげる自身はそれを「教養」などと嘯いてはいるが――実の息子である昭に「クソ親父」呼ばわりされているのもやんぬるかな、という人生の在り方である。
それでも、しげるは「汎宇宙公明正大共存法」の存在を知り、何とか戦えるまでにセントーAを組み上げた功労者ではある。
それに今もセントーAの「声」を聴くことが出来る男でもあった。
そこで運営責任者という立場からは退いてもらって、対外折衝責任者という役職を拝命させた。何しろ普段から胡乱な男であるので、周囲の雑音を煙に巻くのに丁度いい存在であることは間違いないだから。
もっともそれで大人しくなるような男では無いのだが……
そして「完成」により近づいたセントーAからも新たな機構が発見されている。
腹部の装甲――なのだろう――が螺旋に畳まれてゆき、操縦スペースに悠々と乗り込める状態に変化できることが判明していた。
今まで昭はセントーAの背中にある、小さな穴を通って操縦スペースに潜り込んでおり、今から考えるとそれはあまりにも不自然であった。
恐らく今までは非常口の様な機構を利用していただけなのだろう。
だがこれで正規に乗り込む方法が判明したことになる。それは「乗り込む」というより、セントーAを「着込む」という感じではあるのだが、この方が自然であることは間違いないだろう。
それと同時に、新たなる運営陣が模索したのは、セントーAに外付けの情報収集機器を取り付けることだ。それと同時に、戦闘中の昭と連絡を取る方法の確立である。
サヒフォン操る
だが、セントーAに乗っていても昭が声を出せばそれが外部に出力されている事は間違いないので、トランシーバーみたいな機器を外付けできれば問題ないだろうという結論に達した。
それなら同時に戦闘状況をモニターしたいと考えるのは当然の話で、また「汎宇宙公明正大共存法」におけるレギュレーションで、引き分け再試合の可能性がある以上、敵ロボットのデータも集める必要が出てくる。
それに情報収集なら今の人類の技術力で何とかできそうだ、といういささか後ろ向きな考えもそれを後押ししたのだろう。それでも、何も手を付けられない、という状態よりはずっとましなはず。
そこで、格闘戦が主体となるセントーAの戦闘スタイルから考えると、外付け機器を設置する場所としては――
~・~
「脇の下、ですか」
何故かこの場にいる、産土南が微妙な表情を浮かべている。
富士演習場の仮基地とも言える、殺風景な建物の無機質な白い会議室で、南は細い目をさらに細めてそう反応した。
「そう。戦いの記録を見る限り、そこが最適だと判断した。セントーA、というかミスター昭は、グラウンドを使っての戦闘に躊躇が無い」
そう南の声に応じたのは、改めて「エイリアンセントーA運用責任者」に収まったプラカス・ゴビンである。国籍はインドだ。
輪郭から身長まで、縦に伸ばされたようなフォルムの持ち主で、カラーの無いシャツを無造作に来ているように見えた。それでも服屋に吊るされているような姿勢の良さを見せつけている。
それでも何かのお約束に忠実なのか、白衣を羽織っており、しげるとは違って本当に博士号を所持していた。専門は応用数理であるが、それを組織運営に生かしてくれることを期待されての就任であった。
どうしてこんなあやふや状態かというと、セントーAの運営に携わるには絶対の条件があり、それは――
――「セントーAの声が聞こえる事」
である。
そういう条件を満たした中で、運用責任者として最適な素養を持っている者。
それがプラカス・ゴビンであった、という事になる。
侵略を退けて後、人類が一番最初に行った事とは、こういった人材発掘であったと言っても良いだろう。
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