後始末。あるいは次の準備

 ――対「サヒフォンの星戦」後のあれやこれや。


 戦いの後、サヒフォンは生身まま「コンキリエ」に帰還し、恐らくは宇宙で「コンキリエ」を操ったのだろう。

 アーコスは糸の切れた操り人形のように宙に吊り下げされて、綺麗に片付けられてしまった。


 つまり壊れたアーコスはそのまま放置され、それから改めてサヒフォンの星の技術を学ぶことが出来る――という展開にはならない。

 各国はよだれを垂らしながら、空に引き上げられるアーコスを見送ったというわけである。ロボット戦で負けたとはいえ、今の地球ではどうあがいても実力行使は不可能なのだから。


 では、セントーAでは? 互角以上に戦えたのだから、今度は反撃するべきだ。


 ……と考える者もいたようだが、この戦いが全くの初戦であり、これからも地球は狙われ続けると知った瞬間、そんな場合ではないと理解したようだ。

 それは確かに地球人の成長なのであろう。


 内輪もめをしている場合ではない。日本に――セントーAに協力することを最優先にしなければならない、と。


 後にサヒフォン経由で齎された情報においても、


「次の星ですか? いや、僕はさっぱりわかりませんよ。実際に来てくれればわかるんでしょうけど、それをお伝えすることはありませんし」


 と、実質「何もわからない」ということが判明するだけで、事態は全く好転しない。

 それなら、次の決闘までに、できるだけの準備を進めた方が精神衛生上も良いだろう、と開き直るのも早かったというわけである。


 かといって、勝ち目のあるセントーAを扱えるのは、しげるを中心とした白衣の集団だけであることも検証の結果明らかになり、主導権は白衣の集団に握られたままとなった。


 ただ、しげるに関しては、大きな錯誤を抱えたままであることが判明し「所長」なる役職に祭り上げられ、実質は広報担当としてマスコミ族を煙に巻くことを期待されるばかりとなっていた。


 すでに露見してはいるが「昭がセントーAの頭部に変形している」とサヒフォンを騙したことについても、一定の評価は得られたらしい。


 物理的な援助としては、セントーAのメンテナンスを行える格納庫、大雑把に言えば基地の建設が決定。

 それを運営する人材を、セントーAの声が聞こえるか否かで判断せずに世界から広く募集する事にはなっている。


 ただ、この動きはあくまで予定だ。


 次の戦いがいつになるのかさえ、未だ判明していない。

 実は宇宙の運営の方でもまだ決定されていない可能性すらある。


 ただそれでも、昭が戦えるうちに、という事は確定情報らしい、との解釈になり、


「次は百年後」


 ……というようなタイムスケジュールにはならないようだ。


 そんなこんなでますます重要になった七津角昭は――


 ――手を付けていない宿題の山に苦しんでいた。現在、八月三十日夕刻。



                 ~・~


「だーーー!! サヒフォンよ! なんか便利な道具とかないのか?」

「こちらの地球の勉学はさすがに……」


 ノートやプリントが積み重なったちゃぶ台の前で頭を抱えている昭。

 それを眺めながら、ラーメンを啜るサヒフォン。


 そうサヒフォンは「路傍文化」にいる。

 いる、だけではなく201号室に越してきていた。


 前の住人を引っ越しさせてサヒフォンの希望を叶えるこの処置は、今回の事態において行使された超法規的処置の第一号であったことは記すべきかもしれない。


 サヒフォンが言うには「汎宇宙公明正大共存法」に協力したサヒフォンの星は、いち早く決闘の推移を知ることが出来るという見返りがあるらしいとのこと。

 そのためにサヒフォンはそのままこちらの地球に留まることになった、らしい。


 大雑把に言えばサヒフォンは「星間外交官」になったのだろうと理解されている。

 現状では、ひたすらにラーメンを楽しんでいるようにしか見えなかったとしてもだ。


 それならそれで、こちらの地球でも「おもてなし」に全力を挙げるつもりであったのだが、


「いや~、それどうなんでしょう?」


 と、サヒフォンは曖昧にそれを拒否。

 ただ「路傍文化」に住むことだけははっきりと希望したために、このような状況が出来上がっている。


「……ようし! 諦めた! 蕎麦食いに行こう!」

「僕に勝った人が情けないことを……」

「だってこれは喧嘩の質が違い過ぎるんだよ! 殴っても勝てない!」


 そんな風にあがく昭を、ストレート麺を啜りながら興味深げに見つめるサヒフォン。

 間違いなく「どうして昭は学業をしているのか?」なんてことを不思議に思っているのだろう。


 地球常識で考えても、昭の振る舞いは何処かおかしいのだが、それを指摘する人はいなかったようだ。


「……サヒフォンくんいる? お母さんが何かリクエストがあるかって?」


 篁がいつものように、ノックも無しに204号室の扉を開けて、サヒフォンに声を掛けてきた。

 サヒフォンは麺を啜る手を止めて、こう返事をする。


「家系ラーメン――」

「却下」

「俺の……俺のリクエストは?」

「昭はご飯食べてる暇ないでしょ」

「何とかなるって!」


 ――これが「汎宇宙公明正大共存法」が施行された我々の地球の現状であった。


(第一勝 復活! 起動! 戦えエイリアンセントーA!! 終了)

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