司馬遷次郎の狂気、異星人を揺るがす
「鋼鉄ジーグ」――
必要な部分だけを解説すると、他の作品ではパイロットにあたる司馬宙が「ジーグ」という巨大ロボットの頭部に変形することが他の作品では搭乗シークエンスになるだろう。
飛び上がって体を丸めると、いつの間にか頭部になっているのだ。
そこから体のパーツを組み上げて、巨大ロボットに成る。
言語の限界を感じざるを得ないシークエンスだが、幸いこの一連の動きはしっかりと映像化されている。アニメ作品であるから当たり前なのだが。
ただ、これによってサヒフォンへの説明が簡単になったことは確かだ。
適当なサブスクで配信されている「鋼鉄ジーグ」を見せれば、それで事足りる。
しかし「何を言っているのか?」という疑問は解消されたとしても、ジーグの変形システムを納得できるかというと、それは異星人であるサヒフォンにとっても至難の業であるようだった。
特にサヒフォンを苦しめているのは、人が全くの無生物に代わってしまうという事らしく、それを何とか日本語で訴えようとしていたが、それにはどうしても技術力が不足しているようだ。
何しろ、日本人でさえ綺麗に解説できる者はそうはいない。
もはやサヒフォンはセントーAと侵略ロボ――アーコスの殴り合いもそっちのけで、タブレットに嚙り付いていた。
そして理解を諦めたのだろう。実務的なことを確認しはじめる。
「あの……これは普通の人間が全員頭部になるわけではないんですよね?」
「それはそうだ。司馬宙は改造されているからこそ、そういうことが出来る」
サヒフォンの問いかけに、しげるはむしろ胸を張って「鋼鉄ジーグ」の設定をひけらかした。
しかしそうなると……。
「昭さんもですか? 昭さんも改造されてるって言うんですか?」
そこが当然の疑問になる。何しろ今は昭も司馬宙のようにロボットの頭部になっている――そういう話であったのだから。
さすがにそれは無理があるだろう、とサヒフォンもここまでは高を括っていた。
ところが、である。
「うん。されてるね」
それはサヒフォンにとって、全くの奇襲だった。
すっかり蚊帳の外にいたような篁に、あっけらかんと肯定されたのであるから。
ギギギ、と油が切れたような動きで、サヒフォンは篁へと顔を向けた。
「た、篁さん。そ、それは本当なんですか?」
動揺を隠せないサヒフォン。
そんなサヒフォンに篁は追い打ちをかけた。
昭が示した、人間離れした力技の数々を。
それを聞いたサヒフォンは、やはり同じように、それを「こちらの一般的な地球人の力ではない」と判断したらしい。
今まで手も触れなかった操縦器を熱心に触り始めたのだから。
もちろん昭はセントーAの頭部に変形したりはしていない。
だが、つぎはぎだらけで偏りのある情報に接してしまった事で、サヒフォンはそれを誤って認識してしまった。
しげるは積極的に胡散臭く。
南は積極的に沈黙を守り。
篁は「改造」という言葉しか聞こえていなかったに違いない。
それは確かに、サヒフォンにとっては不幸と呼べる連鎖であったのかもしれない。
しかし「誤解」にまで昇華してしまったのは、サヒフォン自身に問題があると言えるだろう。
――あるいはこちらの地球人の悪辣さが宇宙常識においても想定外であったのか。
今、確実にサヒフォンは焦っていた。
昭がセントーAの頭部に変形しているとするなら、ここまでの戦術――慣性によって、疲労を狙う、という戦術の効果が薄いという事になるからだ。
それによって、サヒフォンは戦術の変更を選択することになる。
敵に不自由を強いたという事は、こちらの地球にとって有意義なことであると考えてしまうが……。
果たして本当にそうだろうか?
サヒフォンが誤解によって失ったのは、昭を疲労させる戦術だけだ。
他にも、戦術プランがあったのなら――。
ガシィィイイ……。
アーコスの動きが変わった。
今まではセントーAと真っ向から殴り合っていたのだが、ここに来てガッシリと攻撃を受け止める。そしてセントーAと組み合う事を選択したようだ。
この戦いの序盤、期せずして組み合ったような態勢ではない。
明らかに、こういう態勢になることを狙って戦闘をコントロールしていた。
『んだぁ!? てめぇ!!』
昭もその変化にはすぐに気付いたようだが、気付いた時にはすでに両腕がアーコスと絡み合っていて、そこから容易に脱出できなくなっている。
「――こうなれば、次の手です。セントーAを壊します」
「何っ!?」
サヒフォンの突然の宣言に、しげるが声を上げた。
そのしげるに向けて、サヒフォンは改めて、
「どうして驚くんです? ロボット同士の戦いなんですから、当然そういう事は考えますよ。今までの戦いだって、壊し合いしていたと言っても間違いはないですし」
と、セントーA破壊宣言を丁寧に行った。
「だ、だけど、壊すっていうなら今までの戦いの方が……効率的じゃない?」
そこに南が自虐的とも言える突っ込みを差し込んでみた。
確かに組み合ってしまった今の状態では、破壊のための
だが、サヒフォンはその指摘に慌てることなく、
「そんなことはないですよ。効率を選んだからこそ、この状態を選んだんです。――さぁ、始めますよ」
サヒフォンが操縦器を、勢いよく叩く。
そして――
「こ、これは!?」
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