戦いは泥臭く
がっしりと組み合い、大気を揺るがすのは巨大ロボットの駆動音。そして関節部の軋み。
二台は、そんな動きの予兆を孕んだままで動きを止めた。
地も空も。
そしてそれを見守る連中も、ただ黙ってその静寂を受け止める。
――ゴクリ。
ただ固唾を飲み込む音だけはどうしようもなかった。
巨大ロボの重量、そして圧力を受けて止めることになった地面がひび割れてゆくことも、防ぎようがなかった。
それでも二つの力は拮抗――いや、侵略ロボが僅かに押されている。
だんだんと膝が撓み、セントーAと視線が合う高さにまで。
元々、低い姿勢から立ち上がった侵略ロボだ。押し返すのに無理があったのだろう。
それに、相撲で言うところの「両差し」の態勢であったセントーAだ。そのセントーAの腕の外側から、覆いかぶさるよう態勢であったことも不利だったのだろう。
むしろ今まで拮抗していたことが不思議に思えるほど、侵略ロボのパワーは分散されていたのだ。
恐らくは侵略ロボのパワーはセントーA以上。――いやセントーAが全力を出しているのかはわからない。
そんな複雑なことを考えてしまうほど、見物をしている連中が静寂に慣れてしまった。言ってしまえば、そんなダレてしまうタイミングを侵略ロボは――宙に浮くサヒフォンは狙っていたのだろう。
撓んでいた膝を一気に折り畳み、そのまま自ら背中側に倒れる。
セントーAの肩を掴んでいた両手を滑らせるようにして、開いた脇に差し込む。
侵略ロボの動きによって前につんのめる形になったセントーAの体をそのまま支え、さらに蹴り上げようとしていた。
柔道で言うところの「巴投げ」の形だ。
そんな侵略ロボの動きを黙って見続ける昭ではない。
セントーAが前につんのめるモーメントに飲み込まれる前に、足を動かして侵略ロボの上をジャンプしようとしていた。
だが背中にロケットを背負ったままでは、そう簡単にはいかない。
それでも侵略ロボの蹴り脚は回避できていたので、結果巨大ロボたちは「巴崩れ」といわれるような形になって、地面の上で弾むことになった。
ドゥオオオオン……
その響きが、さらにそれによって揺すられた空気が見物している連中までも揺らす。
そしてそんな空気の揺れをさらに揺さぶるように、
『ええいくそ! やってられるかーーー!!』
と、昭の声が響く。
そしてセントーAはナックルウォークで、覆いかぶさっていた侵略ロボの上から離れて、改めて姿勢を正した。
巴崩れの形になれば、柔道で考えるなら上になって倒れた方は当然寝技を狙う。
だが、ロボ同士の対決でそれがどこまで有効なのかは未知数であるし、何より昭には寝技の心得はない。
それならば、と他の格闘技で考えるならマウントポジションになった、と考えることも出来る。上に覆いかぶさった状態で、ひたすらパンチを侵略ロボに浴びせ続ければいい。
だが先ほどのセントーAの態勢は、マウントポジションでは無かった。
しっかりと侵略ロボの中心を捉えるような形では無かったのだ。巴崩れで、横にずれたような状態であるのだから、それは仕方のないところだろう。
その状態で、侵略ロボと殴り合いになれば、恐らくセントーAは不利になる。
何しろナックルウォークが最も安定するセントーAなのである。
そして安定するために欠かせない腕を使わなければ、パンチの一つも叩き込めないのだ。
そして侵略ロボは、そういったセントーAのバランスの悪さを見逃さない。
現に、あの状態から「巴投げ」に持ち込もうとするほどに、バランスを巧みに操っている。
サヒフォンは来たる再戦に向けて、地球上での戦いに馴染むように調整したのだろう。
それを昭は本能的に察し、自らマウントポジションを避けた。
もちろんただ避けるだけではなく、起き上がろうとしている侵略ロボに向けて拳を当てようと腰だめに構える。
侵略ロボも、そんな狙いに気付かないはずもない。
今度は両足を使い、それをセントーAに伸ばして牽制すると、そのまま後転して、「セントーAと間合いを取る」と「立ち上がる」を同時にやってみせた。
その動きは華麗と呼ぶにふさわしく。
見物している連中からも「ほう」とため息が漏れてしまった。
それは昭にしても同じなのだろう。
ほんの一瞬ではあるが、攻撃に移るタイミングが遅れる。
その僅かな隙に侵略ロボは両腕を上げ、さらにセントーAに向けて駆けだしていた。
前回とは違い、戦いに向けての積極性が溢れんばかりだ。
しかしそんな侵略ロボの動きは腰だめに構えていたセントーAにとっては、まさにうってつけ。そのまま侵略ロボの迎撃に移り――
グゥワンガランドギャシャゴォーン!!
再び破滅的な音が響き渡った。
~・~
そこからもひたすら互角の殴り合いが続く。
互いに組み付くことを避けているのだろう。そうやって相手ロボと、地球に歪みを押し付け合っている。
それを呆然と見つめていた南がぼそりと呟いた。
「……これ、また引き分けになるんじゃない?」
と。
「あ! そうだね。決着つきそうにないもの。という事は、また時間をおいて戦うのね」
篁がうんざりしたようにそう言う中で、南はそうやって再戦になることについては、むしろセントーAにとっては好材料なのでは? と僅かに前向きになった時――
「それは無いです。今回で決めますよ」
二人の頭上から声が降ってくる。
宙に浮かぶ青い肌の少年――サヒフォンがそこにいた。
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