熱戦

 地響きを立てながら、近付いてゆく二つの巨大ロボット。

 これではセントーAが背中に背負ったロケットの出番はないのかもしれない。


 そもそもロケットの点火スイッチは昭が持っており、簡潔に言ってしまえば手動だ。昭が押す気にならなければどうしようもない。

 これから正面切っての殴り合いじゃーー!!!


 ……という時に、昭がわざわざスイッチを押すかと問われれば「そんなこと物理的にありえない」と、昭を僅かでも知る者は全員そんな答えを返すだろう。


 そして実際にロケットは点火されることはなく、巨大ロボット同士は所謂、一挙手一投足の間合いに入り込む。


『死ねやーーー!!!』


 即座に「監督・深作欣二」みたいな雄たけびを上げ、振りかぶった右腕を侵略ロボに叩きつけようとする昭。

 それに対する侵略ロボ。以前の様に半身なって、いなそうとしたりはしない。真っ向勝負を受けて立つように、こちらも右腕を振りかぶっていた。


 そして――


 ドンガラゴッヘンガルングゴシャアアア!!!!


 名状しがたい衝突音が富士演習場全体を覆った。

 拳同士のカチ合いではない。それぞれのロボットの右拳が、それぞれの相手ボディに攻撃を命中させている。


 背の高さ、というより動きの基準となる場所が違うせいなのだろう。


 セントーAの右拳は侵略ロボの左胸に。

 侵略ロボの右拳は、セントーAの左頬に。


 クリーンヒットしている。


 そのまま、それぞれの攻撃が、それぞれの内部に破壊力を浸透させているかのように、そのままの状態で静止していたロボットたちだが、


 ダダダダン!!


 次の瞬間には弾かれたかのように、両者とものけぞりながらたたらを踏んだ。

 攻撃にだけ力を注ぎこんだ結果、前進するという慣性がしばらく働いていたのだろう。


 だがお互いの慣性が静止したことで収まってゆき、次に力が発現したのはお互いのボディにあたったことで生み出される抗力。


 こちらの地球の物理に当てはめると、おおよそこんな理屈にはなるだろう。


 双方ともに未知の力を持つ巨大ロボ同士である。

 そういう現象が起こるのは必然。そして――


「うおおおおおおおおおお!!」


 その激突に心躍ってしまうこともまた必然ではあるのだろう。

 マスコミ族の塊の中からも、叫び声が聞こえてくる。


 それは侵略に対して互角に戦えている、というセントーAの力に高揚した――という事ではなく、純粋に戦いに滾っているということだ。

 その歓声に押されるようにして、二台の巨大ロボは態勢を立て直すと、再び向かい合う。そして、たたらを踏んだ分だけ間合いを詰めると、再び拳を突き出した。


 セントーAは右拳をアッパーとフックの間、所謂スマッシュの角度で、侵略ロボの左脇腹に差し込もうとする。

 かたや侵略ロボは打ち下ろしの右チョッピング・ライトをセントーAの左肩口に叩き込もうとしていた。


 お互いの攻撃の開始時点の高さを、それぞれのロボットが相対的に把握したのだろう。攻撃に変化を持たせたのだ。セントーAは下から。侵略ロボは上から。


 ギィィィィィン!!!


 再び響き渡る衝突音。だがその響き方は先ほどは違う。

 その理由は明白だった。


 侵略ロボは、左腕を畳んで自分の脇腹をしっかりガードし、セントーAの拳を受け止めていた。

 そしてセントーAもまた、左腕を上げて侵略ロボの拳を受け止めている。


 侵略ロボは籠手状の追加装甲のせいなのか。それともセントーAが「攻撃力100」という攻撃極振りをやめたせいが、しっかりセントーAの拳を受け止めることが出来たようだ。


 今度こそしっかりと静止している。


 一方で、セントーAは侵略ロボの攻撃を完全に受けきることは出来なかったようだ。

 打ち下ろしであるので、侵略ロボの攻撃を受け流すことが難しかったのだろう。左足が、ズルリと後退する。


 力比べで負けてしまった。

 いや、それは高さの違いが――


 と、見物客が何とか希望を見出そうとしたその時、


『だりゃあああああ!!!』


 昭の声が響く。

 同時に、セントーAが回転する。


 後退してしまった左足を振り子のように振るう。

 そして右足を軸にして、侵略ロボに背中を向ける。


 打ち下ろしの態勢であった侵略ロボは、つっかい棒を抜き取られたようなものだ。

 思わず前につんのめってしまう。


 その間もセントーAは回転をやめない。

 さらには太い左腕を振り子に加えて、そのまま裏拳で侵略ロボに向かって攻撃を繰り出した。


 つんのめって態勢を崩していた侵略ロボはそれを受け止めることは出来なかった。

 サヒフォンだけは宙に浮くことでその攻撃を躱したが、セントーAの裏拳が綺麗に侵略ロボの頭を捉えていた。


 あまりに見事な攻撃。

 讃えるべきは昭の戦闘センス。


 そして昭は攻撃の手を緩めることは無い。

 侵略ロボへと足を踏み出し、セントーAに大きくを両腕を上げさせた。そのまま侵略ロボの背中に両腕をハンマーの様に叩き込むつもりのようだ。


 その時、宙に浮かんだままのサヒフォンが手元の操縦器を細々と操作した。

 それに応えて侵略ロボは背を丸め、機敏な動きで前転すると、そのままの勢いで膝立てになる。


 そしてセントーAの攻撃を受け止めるべく構えを取った。

 それで恐れ入る昭ではない。そのまま侵略ロボへと両の拳を振り下ろす。侵略ロボはそれを肩で受け止めると、それに屈することなく膝立ての状態から、さらに立ち上がった。


 そして両手をセントーAの肩へ。

 プロレスの序盤でよく見る、がっしりと組んだ状態だ。


 ヒュオオオオオオン……


 地を震わせる駆動音が響く。

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