真昼の流れ星
それでもしげるの放つ「教養」については無差別であるので、他の白衣たちも手伝って、マスコミ族としげるを併せて開けた場所に移動させることに成功した。
大手が引き上げたこともあって、人数、それに機材が減ったことによって、それ以降は遅ればせながらやってきた警備が隔離することに成功したようだ。
決戦の時刻が正確にわかっていれば、やりようがあったのかもしれないが漠然と「多分午前」ぐらいでは、色々手すきになる。
いや、その前に今日という日付が漏れている段階で問題はあるのだが、その後「地球」が存続するかどうか? という状況では、アレコレと緩んでしまうのも、必然であるのかもしれない。
そう考えると、現場までやってきたマスコミ族は職業意識が高いのか、人間として大事な部分を置き去りにしているのかは、判別できないものがある。
そして確実に人間として大事なものが欠けている方は、自らの生い立ちに戦慄していた。
「待ってくれよ。俺、今の乗り込み方結構好きなんだけど」
「それはそれで良いと思うわよ。常識的だと思うし」
昭、南、それに篁まで加わって「教養」の汚染度を確認している。議題はもちろん「ロボットへの乗り込み方」についてだ。
ロボットアニメは、ここに意匠を凝らす時代が確かにあって、それをしげると同じ「教養」の持ち主である南が解説していたというわけだ。
何しろサヒフォンが降りてくるまで暇なのである。
またその暇さがあるために、セントーAに乗り込んでいた昭が癇癪を起してしまったという事でもあった。
「え~、それ常識なのかな? だってロボットに乗る時の常識っていったい何?」
と、暇だから見物に来たのに、やっぱり暇になった篁が南の気づかいを台無しにする。
そしてそれは正論でもあった。こっちの地球ではロボットに乗り込むなんて行動は一般化されていない。
現在、セントーAに乗り込むには背中側の穴に滑り込むこと以外に方法はない。
そのため緒戦の時に見せたように、穴まで足場を組んで、目的の高さまで簡易エレベーターで向かう手順が自然と発生していた。
それは確かに常識的ではあるのだろう。
しかし、それが普遍的だと言われると、もやもやしてしまう事は確かだ。
その中でしげる、それに南が「その手順が正しい」と認識してしまうのは、間違いなくリアルロボットアニメの影響である。
タラップからコクピットに滑り込む主人公の姿を何度目にしたことか。
そして、昭もまたそんな姿を何度も見ていたため、それを抵抗なく受け入れていたというわけだ。それを南に指摘され、慰められ、そして篁に煽られているという流れである。
本当に篁は暇を持て余していたのだろう。
さらに煽る。
「案外、おっちゃんの言ってることの方が便利だったりして。今の方法は間違いなく手間はかかるし。あるでしょ、ほら。頭にヘリコプターで降りてくる奴」
「マジンガーZね」
南が本能のままに名前を挙げてしまった。
「ああ、そんな名前だったっけ? とにかくあれは便利なんじゃない?」
「俺はヘリコプターの操縦なんかできないぞ。それにセントーAに着陸した後はどうするんだよ?」
「ええと……放置かな?」
「ここでもライディーン問題か……」
ライディーンに乗り込むときは、バイクで高々とジャンプして、そのバイクを乗り捨てて乗り込むというシークエンスが描かれている。
だが、乗り捨てられたバイクはどうなってるんだ? という視聴者からの声が相次いだので、のちにライディーンの腹部にバイクが収納されるカットが追加された、というエピソードがあるのだ。
南はそれを思い出したのだろう。
であるなら、セントーAにもヘリコプターの収納スペースを設えなくてはならないという方向になりそうではあったが、昭がもっと根本的な不具合を口にした。
「そもそも今は背中にロケット背負ってるんだ。そのせいでまず乗りにくいんだよ。結局足場が無いと、乗り込めるかも怪しい」
「あ、そうだったわ。邪魔なのね?」
現在、セントーAの背中にはロケットが装備されている。
それはほとんど構想のままに実現化したのであるが、そういう弊害は予想外と言えば確かにそうだった。
しかし昭はそれを受け入れていた。
「邪魔だけど仕方ない。それで確かに早くなれるんだから」
試運転も昨日済ませている。
それなりの手ごたえもあったようだ。
その後も「セントーAへの乗り込み方」について語り合う三人。
しかしその中で、南だけはこの状況にやるせなさを感じていた。
今日にでも地球の負けが確定するかもしれない。そうなればどうなってしまうのか。それを考えてきちんと不安になるべきなのではないのかと。
こんな益体の無い会話に興じている場合ではないのではないかと。
しかし、この会話もセントーAの運用方法を考えているのだから前向きであると捉えることは可能だ。
いやそれは逃避――どっちが? ――益体の無い話に興じることが? それとも前向きだと言い訳することが?
なまじ、やり取りが上滑りしているだけに、南の思考はどんどん深刻化してゆく。
それも限界かと思われたその時――
青い空に星が流れた。
いよいよである。
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