猶予は五日

 五日後――


 それは何とも微妙なところだった。

 いやセントーAの強化案が形になっていない現状では、余裕があるかどうかも判断できない。


「……とりあえずキャノン砲装備に関しては見送った」

「それは賢明でしたね」


 それでも、新たな情報で取捨選択だけはできる。

 まず遠距離での物理的な攻撃は通用しないと見切ってしまう。効果があるかどうかを確認する余裕がない事だけは確かなのだから。


「そうなるとレールガンもダメですね」

「セントーA自身には発電能力も蓄電能力も無いからな。かなりの大型バッテリーを背負うことになる。そうなると機動力は死んだも同然で、さらにその攻撃の効果が望めないとするなら――そうだな。レールガンはダメだろう」


 先に南がバッサリと切り捨てて、しげるがさらにくどく否定した。しげるがくどくなったのは、セントーAに「レールガン」を装備させるという発想が出てこなかったことを悔しく思ったせいだ。


 よほど悔しかったのだろう。あるいは昭にダメだしされても諦めきれなかったのか、しげるは続けてこんな提案を蒸し返す。


「剣……というか金属の棒は用意できているのだが」

「剣、ですか。定番ですね」


 「教養」深い南が、当たり前ではあるが昭とは違った反応を示す。

 それに気を良くしたしげるが、にこやかに言葉を重ねた。


「そうだろうそうだろう。やはり剣を持たせなくてはな!」

『ダメだっつとろーが! クソ親父!!』


 丁度乗り込んだところだったのだろう。

 セントーAの中にいる昭が叫んでいた。


「昭君、こっちの声が聞こえるのね?」

『あ? ああ、言われてみればそうだな。そっちも俺の声が聞こえるのか』

「聞こえるわ。それで確認したいことがあったんだけど……」


 いい機会だと考えたのだろう。南が昭に尋ねる。


「私にはどういう状態かわからないんだけど、前の戦いで随分動いたわよね。浴びせ蹴りというか……」

『ああ、やったな』

「その時、中にいる昭君はどういう状態だったの?」


 そう尋ねられたところで、昭は沈黙してしまった。改めて思い出す必要があったのだろう。それは南にもわかるので、昭の返答を待った。


『……いや……悪いけど、よく覚えてねぇな。けど覚えてないって事は、それが自然だったって事なんじゃないか?』

「そう。ありがとう」


 そんな昭の答えは半ば予想されたものだったのだろう。

 南は粛々といった雰囲気で応じた。そして、しげるに身体を傾けて、


「重力操作や慣性制御が働いている?」


 と、こっそりと尋ねた。

 それに対してしげるは難しい表情を浮かべる。


「……計測したいところではあるのだが、まず計測機器がな。搭乗者の感覚に頼るしかない状態だ。そして昭への聞き取りは困難であり、聞く限りそれは地球上でも可能な動きではある――ああ、こちらの地球でもな」


 サヒフォンの言葉を「しっかり理解している」と言わんばかりのしげるの言葉。

 それを聞いて南も難しい表情を浮かべた。


「セントーAにそういった力があれば、とも思っていたんですけれど、七津角さんはもう試しておられたんですね」

「まぁ、それはな。しかし結論としては『セントーAなら敵ロボットにダメージを与えられる』と信じるしかない」


 何とも頼りない言葉ではあるが、今はそれに賭けるしかない状態ではある。


『剣がダメだっつのは、近付くのに腕を使うから持てねー、って話だからな。とにかく近付く方法を考えた方が良いと思う。前はさんざん逃げられたからな』


 セントーAから、昭が加わってきた。

 格納庫の扉が開き始めているので、もう間もなく訓練だ。一応、引き続いて二本足での歩行訓練を進める予定ではあるのだが――


「グレートブースター……」


 そんなセントーAの様子を見て、南がぼそりと呟いた。


「何? グレートマジンガーを発射台にするだけの残念武装は却下だぞ」


 グレートブースターはグレートマジンガーの背中に追加された武装――という事になっているが、実のところグレートマジンガーを経由しないで、直接ぶつけた方が良いんじゃないか? と思えてしまうような追加武装だ。


 グレートブースターは、そんな設計思想から疑ってしまうような――言ってしまえばミサイルである。


 つまり遠距離からの物理兵器であるので、今度の決闘では役に立たない可能性が高い。

 南もそれはわかっていた。それでも南が「グレートブースター」を思い出したのは、


「ですから、純粋な推進能力だけを考えてみては、と思ったんです。背中にロケットを背負わせれば、単純に速度は増すと思うんですが……」


 それを聞いて、しげるは大げさな仕草でポンと手を叩いた。


「そうか……セントーAに装備されているから、慣性もそのまま利用できるだろうし、体当たりには役に立つな」

「と、思うんですが」

「いや、それがもっとも有効なのかもしれない。それに実現性も高い気がする」


 何と言っても二人は素人なのである。

 しかし、アイデアだけは確かに説得力があった。何より、搭乗者である昭の要望に応えていることが大きい。


 そう判断したしげるはすぐに動き出し、外に出たセントーAは調子よさげにナックルウォークを披露していた。

 二足歩行の訓練は何処に行ったのか。


 その様子を見つめる南の表情は晴れない。

 検討の結果導き出されたのが勝機ではなく、ただの悪あがきなのではないのか?


 サヒフォンと向かい合った南は、どうしてもそう感じてしまうのである。

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