サヒフォンのうっかり

 サヒフォンの驚きは止まらなかった。

 攻撃であることは何とか理解したようだが、


「攻撃……攻撃ですか……ええと、それですと、あの……何と言えばいいんだろう?  もっと落ち着いて欲しくなる、移動方法は……」


 と、さらに混乱を深めてしまったようだ。

 そんな混乱状態のサヒフォンの言葉では、昭も篁もさっぱりわけがわからないので、フォローのしようもない。


 ただ、南だけは何が起こっていたかを知っているので――


「――あ。あの……もしかしてロケットの事かしら? ロケットというか推進方法全般のことかも」


 と、取り合わず見当をつけてみる。

 それを聞いてサヒフォンは、


「“ロケット”……」


 と、浮かされたように呟いて、再び見上げるような動きを見せた。

 そして上を向いたまま、


「ああ……“ロケット”……言葉だけではよく意味が分かりませんでしたけど、あれがロケットと言うなら、なんとか理解できそうな気がします……どうしてこんな順番なんだ?」

「順番がどうしたよ?」


 後半は半ば独り言であったサヒフォンの発言に、昭が反応した。

 それを聞いてサヒフォンは顔の向きを元に戻すと、逆に昭に尋ねてくる。


「……僕、『順番』って言ってました?」

「さっき言ってたろうが」

「あ~いや~……」


 サヒフォンは盛大に語尾を濁す。そして、


「あ、あの、忘れてください。僕が『順番』って言ったのは」


 と、驚きの懇願を行ってきた。


「はぁ? 何が?」


 と、当たり前に昭が聞き返すが、それもまた要領を得ない問いかけだった。

 「順番」という単語がまずいらしいのは伝わってくるが、何の「順番」がまずいのかはわからないままだからだ。


 だが、それを細かく確認することは「忘れてください」という懇願を無視することになってしまうのだろう。

 それはそれで突破口になるかもしれないが――


「あの……それって『決闘法』に少しは関係ある? つまりレギュレーションに関係あるかどうかって事になると思うんだけど」


 南が目一杯大雑把に確認してみる。

 「レギュレーション」という単語が通じるのかどうかは、正直言って賭けではあったが相応しい日本語が思いつかなかったのだから仕方がない。


「――ああ、そうですね。南さん。その通りです。僕も色々規約があって、説明出来ないんです。『汎宇宙公明正大共存法』とは直接関係は無いんですけど、常識としてあんまり言わない方が良い、みたいな感じですね」


 そんな南の心配をよそに、サヒフォンはつらつらと並べ立て始めた。

 『順番』がどういう意味なのかは分からないが、サヒフォンも何やら立場があるらしい。


「よぉ、それはわかったけどよ。それならこっちの質問にも答えられるところは答えてくれないか? こっちばっかり教えてばっかりじゃ、何だかバランスが悪い」


 昭もサヒフォンの立場は理解したようではあるが、それでも何かモヤモヤが残ったのだろう。憂さ晴らしの様にサヒフォンに提案する。

 それはサヒフォンにとっても救いになったようで、笑顔を見せた。


「いいですよ。色々教えてもらいましたし、ラーメンごちそうになりましたし」


 それもあったか、と昭もまた破顔する。

 そのやり取りを傍らで聞いていた南は「ラーメンの費用だけで情報収集ができるのはコスパが……」等と呟いていたが、それはスルーされた。


 そこで、昭が改めて何を聞こうかと悩み始めたが、再びサヒフォンから問いが発せられた。


「あの~……また僕からなんですけど――皆さんは、僕とまた戦う事はご存じなんですか?」

「あ? そりゃ知ってるよ。まだ決着ついてないしな。その準備もしてる。俺はお前がそれを探りに来たんだと思ってたんだ」


 その問いに、すぐさま応じる昭。

 サヒフォンもそれに頷きながら、


「それは僕もしてるんですけど。ああ、いえ、そちらの準備を探りに来たわけでは無いんですよ」

「それはわかってる。お前も戦いの準備してるって事だな。よぅし、燃えてきた!」


 と、昭の意気が上がるが、それとは対照的にサヒフォンは「はぁ」とため息をついて、何だか気乗りしない様子だ。


 そんなサヒフォンの様子に、昭は気を悪くした。


「……なんだよお前。戦うのイヤなのか?」

「……正直に言っても良いですか?」


 質問に質問で返すという禁じ手を駆使し始めるサヒフォン。もしかすると宇宙では禁じ手では無いのかもしれない。

 そこまで深刻な様子を見せられると、サヒフォンが子供の姿であることも手伝って、再び義侠心のようなものが昭の中で目覚めたらしい。


「わかったよ。怒らないから、言ってみろよ」

「……戦うのはいや、って事になるかもしれないんですけど、それを正直に言うと、面倒くさい、という方が正確な気がしまして」

「面倒って……お前、そんな気持ちでこっちに来たのか?」


 昭の確認にコクリと頷くサヒフォン。

 その心理は割と想像しやすいのだが、元々は「地球に侵略に来た」という前提があるのに、今の状態に陥っている事になっている。


 その前提と先ほどのサヒフォンの言葉を組み合わせると、


 ――「侵略めんどくさい」


 と、ゆるふわ系の四コマ漫画のタイトルになってしまう事がなんとも業が深い。

 そのため南は、そして昭もさすがにすぐに声を出すことが出来なかった。


 その時――


「それ、サヒフォンくんの星でもそういう感じなの?」


 「あずきバー」と格闘していた篁が、突然声を発した。

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