サヒフォンの疑問
「それで、何のために来たんだ? 敵情視察か?」
と、サヒフォンの自己紹介が終わった瞬間、いきなりぶっこむ昭。火の玉ストレートである。
「ラーメン喰いに来たわけじゃないんだろ?」
「それはそうですよ。昭さんに尋ねたいことがありまして、やって来たんですけどラーメンは良いですねぇ」
何となく繋がっているようで繋がっていない答えを返すサヒフォン。
それは話慣れていない――というか、そんなことは当たり前だ、と自分に突っ込む南。
このサヒフォンがきっぱり日本語話そうとしていて、袋麺の説明書も読んでいるのだから、読むことも出来るのも明らかで……。
(何か……もう、何もかもがおかしい!!)
と、さらに自分に突っ込み続け、南はどうにか頭を抱え込むことは我慢した。
そしてそんな努力を無視するように、
「お前、ラーメンにこだわる辺りまだまだだな。地球に来たら蕎麦を啜らないと」
昭は謎のマウントを取り始めてしまった。
それにサヒフォンも乗り気になったのか、
「蕎麦ですか? 確かにまだ経験はしていませんが……」
「そうか。けど、初っ端がカップというのは――よし、食いに行くか」
また盛大に脇道にそれそうになる。
南がこれ以上は――と、腰を浮かせかけたところで、
「それは後にしなよ。なんか聞きたいことがあったんじゃないの?」
と、冷凍庫から「あずきバー」を取り出しながら、篁が冷静に指摘した。
昭もそれで思い直したようだ。
「それもそうだな。順番的にはそっちか。――で、何を俺に聞きたいんだ? さすがに喧嘩相手に手の内全部は話せねぇよ」
相変わらず容赦の無い切り出し方ではあったが、それでもホッと胸をなでおろす南。
そしてサヒフォンも真剣な表情を浮かべる。
「喧嘩……ああ、あの取り決めをそういう風に。わかりました。多分ですけど喧嘩とは関係ないと思います」
「そうか。それなら、俺がわかることならなんでも聞きな」
見かけは少年であるからサヒフォンに親切にするのは、何だか正しい行いのようで、昭の言い分には侠気のようなものを職業的に感じてしまう南。
が、考えるまでもなく昭の対応は地球人として明らかに間違っている。
そしてサヒフォンもまた侵略者としては、間違っているのだろう。
「何か……したかったのだとは思うんですが、それが見当もつかなくて。何かをくださったように思うのですが、それはまだ早いというか――でも、お礼を言った方が良いのか、よくわからなくて」
だからと言って腰が低すぎる! ……という文句を侵略者に言うのも、間違っているのだろう。結局、昭の対応が正しいような気がしてくる。
そして昭は、さらに親身になってサヒフォンを促した。
「それだけ言われてもわかんねえよ。最初から話しな」
「はい。そうですよね。……ええと、僕この星に来るのに乗ってきた乗り物があるんですけど」
「なんだよ、お前。あのロボットの肩に乗って来たんじゃねぇのかよ。それは何と言うかがっかりだな」
「いや、それはちょっと嫌なんですけど。とにかく乗り物で来まして、前にやった喧嘩が終わった後、乗り物に引き上げたんですよ」
「ああ、空に帰っていった奴な。空にそういう帰れる場所があったのか」
「空というか、宇宙ですね。で、帰って来てこれからの事を考えて、軽く掃除を――」
「す、少し待ってもらえる?」
南がどうしようもなくなって、昭とサヒフォンのやり取りに、強引に割り込んできた。
それで、ピタリと止まる二人。それはそれでプレッシャーになるのだが、ここで引くわけにはいかない南はなんとか踏ん張った。
「その。サヒフォン……くんが言ってることに心当たりが――」
「そうなんですか。ところで……」
「ああ、南だよ。産土南。何だか最近、俺がかなり世話になってる」
決死の覚悟の南の割り込み。それを軽く扱っているようではあるが、ここまで自己紹介もしてないことがそもそも間違いであったのか。
驚くべきことに篁も同じような状態であったので、ついでに篁も自己紹介を済ませておく。
それを神妙な面持ちで聞いていたサヒフォンは、見上げるような動きを見せ、
「……そういうこともあるんだ……はい、わかりました。ええと、南さんでよろしいですか?」
と、何かを受け入れたらしい。そんなサヒフォンが改めて南の名を呼んだ。
「え、ええ。いい……わ。そ、それで心当たりがあって――実はこれ、七津角さんに伝えておきたい情報なんだけど」
「はぁ? ……ああ、そういえば最初はそんな話だったな。クソ親父に連絡とりたいって――それサヒフォンに言っても大丈夫なのか?」
昭としては南の話がいきなり自分に飛び火した、という感覚であるらしい。
戸惑いながらも、なんとか南に確認する。昭としては、南がしげるに伝えたいのはセントーA関連の話だと思っていたのだから、それは仕方のない反応だろう。
しかし、それは見当外れで南が報告したかったのは、地球上空に存在するUFOに攻撃を仕掛けたという情報。
各国は隠したかったようだが、萬戴グループとして改めてアメリカに文句をつけると、そういう情けない顛末を日本に伝えてきたことが判明し――それを南がサヒフォンに伝えることになった。すると、
「え? あれ攻撃だったんですか? いや、何かものすごく散らかしてましたけど、あれも片付け出来ないわけじゃなく?」
サヒフォンが驚きの声を上げたのである。
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