ニューヨークに行きたいか?

 格納庫にいる誰よりも切羽詰まっていると南は判断され、中二階に設置された休憩室に案内されることになった。

 何よりも冷房を欲して。


 パイプ椅子に長机。電気ポットぐらいしかないという殺風景な部屋であったが、それでも腰を下せることが出来たのは大きかったようだ。

 南の様子を見ると、確かに落ち着きを取り戻したように見える。


「で、何があった?」


 と、パイプ椅子の背もたれに身体を預けながら、昭が改めて切り出した。

 セントーAの強化案については、アイデア出しの段階でしかなく、それなら南の問題に取り掛かった方がマシか、というぐらいの心境であるらしい。


 何故、昭がそんなことをしなければならないのか? という、根本的な疑問に気付くものは誰もいなかった。

 しげるは気づいているのかもしれないが、沈黙を守っている。


 あるいは南の抱えている問題はセントーAに関連していることに間違いはなく、それならば「関係ない」と言えるような問題ではない、と判断したのだろう。

 実際、しげるは関係しているし、ある意味では南に言質を取られているような問題であった。


 それは――。


「ざっくり言うと、外国が鬱陶しいのよ」


 と、南は本当にざっくりと維新志士みたいな事を言い出した。

 足を組んで、俯き加減でそんなことをしんみりと、であるからさらに深刻さが窺える。


「外国? 外国は無視してたんだろ? セントーAを」


 昭もまた、しげるの説明をざっくりとそんな風に解釈していた。

 だが、その理解はセントーAが動き出すまで。もしくは侵略ロボが地球にやってくるまでの話である。


 南は改めて、そんな簡単な話ではない、と昭に説明する。

 それがなんとも言い訳のように聞こえたのは……。


「それにしたって、いきなりすぎるのよ。まるでヒステリーでも起こしたみたいになってるわ」


 実は現在、各国はUFO「コンキリエ」に幼児扱いされた事は公表していない。あるいは永遠に公表しない可能性もある。

 当然、こっそりとでも攻撃したとは言っていない。それを表にしろ裏にしろ言ってしまうと国の威信が揺らいでしまうからだ。


 治安維持は国家の必要性を保証する、国家を運営するものが絶対放棄してはいけない業務であるのだがコンキリエ相手には、保障もままならい状態なのである。


 それでも何とか格好をつけるためには、異星人と互角に渡り合って見せた「エイリアンセントーA」を何とか手に入れなければならない。

 それが無理なら、せめてその技術を――という諸外国の風潮になっていた。


 かといって、いつものように日本に無茶振りをしてしまうと、国どころか地球が危ない。そして日本もまた駆け引きではなく、来るべき再戦に向けて準備を進める必要があり、各国の要望に応対している余裕がない。


 それは各国も認めざるを得ない日本の対応ではあったのだが――


「それは政府とか国の間の協調だから。あっちこっちの裏側が動いてるのよ。それが各国政府の要望なのなのか、金を匂いを嗅ぎつけて動いているのかはわからないんですけど」


 昭に説明しているのか、しげるに嫌味を言いたいのかよくわからない口調で南は説明という名の愚痴に一段落つけた。


 しげるは「マフィアどもが動く」みたいな事は以前にも口にしており、南に言わせれば「わかっていたなら、その対応についても考えておいて欲しかった」という気持ちになったのだろう。


 しげるもその心情をくみ取ったのか、


「君のところだけではなく。君のところの上位組織も協力してるはずだが……?」


 と、反論とも疑問ともとれる言葉を紡いだ。

 ちなみに矢立組の上部組織は萬戴グループと言い、表家業としてはセキュリティ方面を取り仕切っている組織だ。


 実は萬戴グループ、元は矢立組と同格の組織であった。矢立組のしのぎを一部受け持って、それを拡大し、言ってみれば合法的に「みかじめ料」を回収するシステムを作り上げてしまった、という歴史がある。


 そのため現在は上位組織という事になっているが、矢立組に対しては今も丁重に扱うことを萬戴グループは徹底していた。。

 しげるとしてはそんな事情も知っているから、


 ――「萬戴グループが動けば、どうしたって目立つ。窓口としては矢立組と繋がっていれば十分だろう。防諜の観点からもこれが理想のはず」


 という考えであったようだ。


 単純に、ロボット以外の雑事はみんな丸投げしたい、という本音が透けて見える。それでもセントーAを守るためであるし、日本政府はいまいち頼りないと考えている辺りは評価すべきだろう。


 日本政府も萬戴グループに表看板があることで、堂々と防諜方面で協力を申し入れ萬戴グループもそれを了承した。

 それもまた諜報戦の抑止力になりえるだろう。これで政府としてもセントーAに注力することが出来る――


 ――ぐらいまではしげるも聞いてはいたのだが……。


「こういう時は独裁国家の方が、割と大人しくなるようですね。ただ、自由の国は本当に自由で、アレコレと嗅ぎまわり続けるんです。今のところは水際で抑えていますけど……」


 南はどうやら萬戴グループの顧問みたいな役職にまで就いてしまっているらしい。

 完全に防諜の責任者のようなことを言い出していた。


 そんな南が昭に言う。


「とりあえず、ニューヨーク辺りにセントーA持って行ってドカンとやってくれないかしら?」


 ……具体的に都市名まで言ってしまった。

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