決戦に向けてその二

 ここで改めて「ライディーン」のフォルムを確認してみると、第一印象的には「エジプトっぽい」になるだろう。より正確に言うなら「古代エジプトっぽい」である。

 特にファラオと呼ばれた王の様に、顎に飾り物の付け髭と思しきものがデザインされている辺り「まんま」と言っても良い。


 それなのに「ライディーンは日本人のDNAがそうデザインさせた」などとは完全に妄言――最近の言葉で言うなら「文化の盗用」とまで言われる可能性すらあった。


 昭はそんな危険性には気付いていない、いやそれ以前に「ライディーン」のデザインについてもうろ覚えであったのだが、とにかく調子に乗った父親が大嫌いであった。

 よって、あっさりと手を上げる。


「痛い」


 息子に頭を叩かれたしげるは、ハゲ頭をさすり眉毛を下げながら短く呟く。


「改造されたこと思い出して、思わず手加減しちまった。失敗したぜ――で、まだ言うか?」

「た、確かに、論理が飛躍していることは認めよう」


 しげるは多少、言論の不自由を感じさせた方が良いらしく、とりあえず暴走は少しおさまったようだ。

 だがそれでも、現行のセントーAについては問題ないという認識は揺らぐことは無かった。


 セントーAを「ライディーン」を基準にして復活させたことは間違いない事ではあるし、実際それで動いているのであるから、一定の説得力があることは言うまでもない。

 それでも昭の苦情を取り入れるとするなら――


「――パーツが全部掘り出されていない可能性があるのかもしれない」

「本当か? で、どこが……ああ、足首から先か」


 それは、しげるにとっては妥協だったのだろう。

 しかし、昭がすぐに気付いたように、確かにセントーAには不足している部品パーツがあるように見えるのも確かだ。


 具体的には足が短いのである。

 それを合理的に考えると、やはり脚部のパーツが足りていないと考えるのが妥当なところだろう。


 腕部に関しては、指まであるのでまず間違いなく全部揃っているわけで、バランスを考えるなら、やはり足が短いという事になる。


「……今のセントーAはダイガード的なフォルムでもあるし、力強さを感じさせて私としては十分完成しているように思うのだが」

「またわけのわからん事を……まぁ、仕方ない。お前の言うとおりになるのもむかつくけど、二本足で動けるように練習してみるか。どのみち、今から部品掘り起こされたところで間に合わねーんだろうし」


 今度は昭が折れる形で、建設的な方向に舵を切った。

 だが、それによって再び顕在化する問題がある。


「で、武器はどうするよ? 言っちゃあなんだが、凶器を喧嘩で使うのは感心しねーぞ。取られたら逆にこっちがやばい」


 昭の苦言は、ひたすらに実戦的であった。男の美学とかそういう観念的な問題ではなく、しっかりと危険性を指摘している。

 だからこそ、しげるもすぐさま答えることが出来た。


「それなら安心しろ。セントーA用に製造された剣ではセントーAに傷一つつけることは出来ない!」


 だから武器を取られても大丈夫、という理屈になるわけだが、そうなると根本的な部分で理屈が歪んでしまう。


「んじゃあ、相手も剣が効かないって事になるじゃねーか! このクソ親父が!!」


 あっという間に白衣ごと、昭に襟首を締め上げられるしげる。

 無駄に費やされた予算の事を考えると、言うまでもなく自業自得だ。


 その後。殺すのも面倒だ、と言わんばかりにしげるを放り捨てた昭は、改めてセントーAを見上げる。


「こう……前屈みなんだからよ。背中に何か背負わせれば、自動的に相手に狙いをつけれるんじゃないのか? 何かそういうの見た覚えが……」

「それはガンキャノンの姿勢だ。ガンダムのオープニングだな。♪うてよ、うてよ

、うてよ~、という奴だ。我が息子よ」


 結局、しげるはさっぱりめげていなかった。

 座り込み、あぐらをかきながら、うんうんと頷いている。


「確かにそれは妥当な強化案かもしれない。剣でないことは惜しいが、そういった飛び道具を追加武装として選ぶのは有りだろうな。キャノン砲は今からでもなんとかなるか? いやスケールの問題が……」

「俺が……クソ親父のような考え方をしちまっただと……?」


 話が進んだのに、愕然としてしまう昭。

 昭にとってはどうしようもないことだが、昭が自我を獲得する前に、そういった「教養」がインプリンティングされてしまうことは防ぎようが無いし、今更消去も出来ない。


 消去しようと思えば、今からでも「教養」を身につけ、それを避ける術を身につけなければならないのだ。

 そんな精神的な負のスパイラルに昭が墜ちようとしていた時、


「――その武装、こっちに回してもらえるかしら」


 と、物騒な申し出が格納庫に響いた。

 七津角親子が揃って声のした方を向くと、そこにいたのは南である。


 先日のワンピース姿とはうってかわって、麻の開襟シャツにスキニージーンズという活動的な装い。首元のチェーンネックレスが輝いているが、アクセサリーの類はそれだけで、言ってしまえばかなり事務的な装いでもあった。


 それなのに要求は「武装をよこせ」である。

 南もまた、上手くいってはいないようだ。細い目の下をクマが取り巻いている。

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