決闘に向けてその一
そんな風に地球全体が騒がしくなり、それが沈静化していく中で、セントーAの強化については真面目に検討されていた。
場所は富士演習場のほど近く。戦闘後、セントーAは昭が乗り捨てた形になっていたが、再び昭が搭乗し演習場の外れにある格納庫らしい場所へと移動している。
しかし、その格納庫もまたセントーAの大きさには対応できなかったようで、上半身は格納庫の天井を突き破って、そのまま野ざらしになっている辺り、なんだかんだ言っても日本政府もまた、侵略については本気では無かったことが窺える。
「なに、間違いなく予算は増えるからな。これから本格的な基地を作ってもらおう。それが静岡というものだ」
と、しげるは相変わらず胡乱なことを口にしていたが、実際本気で臨時予算が組まれることになっている。
セントーAのメンテナンスのために必要、と言うだけではなく防諜の観点からも野ざらしというのは、実に具合が悪いことは間違いないのだから。
そうなると基地の建設候補地が本当に静岡になるのかどうか。
静岡が候補地から外れた場合、決闘を行える場所としては富士演習場以上に適した場所があるのか。
この検討だけで、かなりの難産になることが予想されている。
だがそれも侵略ロボに勝ってこそ、の話であり、勝つための方策を練ることが喫緊の課題であることは確認するまでもないことではあった。
「銃という発想は当然だが、それを製作している時間はない」
と、しげるはまず武装の種類を制限した。
主に技術的な観点から。
「銃だけじゃなくて手に持つの全部ダメだぞ。歩きにくいんだよ、セントーA」
そして昭がパイロット的な観点から、銃のみならず武器の類を全て無しだと言い切ってしまったのだ。
未だに夏休みの真っ最中であるから、昭の身は空きまくっている。今日も例のヘリコプターでこの格納庫に運ばれセントーAに乗り込み、アレコレと試していた。
昭が夏休み中なのは幸いと言ってもいいかどうかは微妙なところだ。
地球が侵略されれば夏休みの宿題はすべて反故になるだろう。逆に昭が勝った場合夏休みの宿題は存続になる公算が大きい。
昭がそれに気付いた時、いったいどういう判断を下すのかは予断は許されないと言っても良いだろう。今のところ、親子ともどもセントーAの強化案に夢中なのだが。
「だからそれを訓練せよ、と言ってるんだ我が息子よ。剣も使えなくて、何が巨大ロボットか。殴り合いが得意だからと言って、他の研鑽を怠ってはいかんぞ」
「……おい。もう剣を作ってあるとか言い出すんじゃないんだろうな? それとも剣でも掘り出したのか?」
昭が穿ったことを言い出した。
ちなみに、今の昭は原色バリバリの防護服に着替えている。具体的には黒地に赤いファイヤーパターンの柄。セントーAのミニチュアと言っても良いだろう。
これでは手の込んだコスプレ以下、という評価にならざるを得ない上に実際に防護する性能があるのかは判然としない。冷房など効きようもない格納庫であるので、防護服の前を開けることが出来るのが、救いと言えば救いなのかもしれない。
「いや……掘り出してはいない」
昭の追求に対して、しげるは辛うじてそれだけ反論した。
という事は――
「てめぇ、このクソ親父! 剣はもう作ってやがるな!?」
すかさず昭がさらに踏み込んだ。まるで消去法を駆使したかのようだ。
昭のさらなる追求によって、しげるは慌てて目をそらした。事実上の自白である。
「い、いや……到底剣と呼べるような切れ味は無くてな。ただの棒と変わらない」
言い訳があさっての方向を向いているのが、しげるらしさというものかもしれない。しかしそんなおためごかしなど、長年しげるに付き合ってきた息子に通じるはずもない。
「剣でも棒でも持てないっつってるだろうが!! 基本は四つ足なんだよ!」
「だから、その移動方法をやめろと言っている!!」
堂々巡りである。
セントーAのメンテナンスに回っていた白衣たちが寄ってたかって親子喧嘩を止めようとしたことで、それは間もなく沈静化したのだが……。
「……やっぱり何かおかしいんじゃないのか? 戦える事は戦えるんだけどさ」
昭の訴えはさらに深刻さを増すことになっていた。
だがそれでも、しげるが折れることは無かった。
「い~や! ライディーンが先例だと言ってるだろう? 実際、そうすることでセントーAはこうして完成したのだからな」
「いや、昔のアニメが役に立つってのはどうにも……いや、こいつは大昔のロボットなんだろ? それが最近のアニメで……ん? とにかく変だろ?」
昭は上手く文章に出来なかったが所詮フィクションであるアニメが、実際のロボットに影響を与えているという時点でかなり怪しいことは言うまでもない。
逆に、セントーAが遺跡のようなものだと考えると、五十年ぐらいしか遡れないライディーンが影響を与えているとなれば、それはもう時空が捻じれていると考えるしかなくなる。
――こういうことを、昭は主張したかったのである。
そしてそれは真っ当な抗議と言っても良い。
だが、しげるはその抗議を真正面から受け止めてなお、さらに胡乱に反論した。
「なるほど……ライディーンは日本人のDNAに刻まれている。そう言いたいのだな、我が息子よ!!」
……反論では無いのかもしれない。
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