いつもの日本の状態

 そんな風に宇宙に法があるという話を、すぐさま信じる者はいなかったのは当たり前と言えるだろう。尚も日本が技術を隠匿していると考える向きが多かったのも仕方のないことかもしれない。


 だが改めて日本を糾弾する暇はなかった。


 ロボットを収納したUFO――この時はすでに「コンキリエ」という名称がつけられていた――が地球上空で好き勝手に動き回り始めたからだ。

 そう。重力も慣性も関係なくまさに好き勝手に。


 これだけでも各国は青ざめたのだが、やがてコンキリエの狙いが判明すると、さらにその表情が苦悶に歪むことになる。


 いい風に考えれば、コンキリエは掃除をしていたのだ。

 地球上空を覆うスペースデブリを熱心に回収してくれていたのだから。


 廃棄されたアレコレ、燃料タンク、それに動かなくなった人工衛星。

 そういったものをコンキリエは本体に巻き付いていたウィンナーを伸ばしてそれを収納し――恐らくは処理したのだろう。


 その後、それらを船外に廃棄することは無かったので「魔法と区別のつかない技術力」で、何とかしたのだろうと投げやりに理解された。


 デブリの除去だけであれば、その後もその技術力を追求する方向になった可能性はある。


 だがしかし、コンキリエのボランティアはそれだけでは終わらなかった。

 コンキリエは当たり前に、各国の秘密衛星まで回収していったのであるから。


 地球上空を好き勝手に動き回れるという事は、当然そんなことも可能であり、異星からの侵略者となれば地球のしがらみも全く関係ない事も当然。

 とはいっても、ここで秘密衛星の存在が知られてしまえば、各国はもとより政府を非難できるシステムが生き残っている国では内情不安を招くことになりかねない。


 そこで声の大きいタカ派が中心になって、ロボット同士の決闘が行われた三十六時間後には核ミサイルでの攻撃が決定された。

 コンキリエごと宇宙の闇に葬ろうという考えだ。


 その効果を疑問視する声は確かにあった。

 繰り返すがコンキリエは魔法のような技術力を持っている。ミサイルとは言っても、まず近付くことも出来ないと。


 だがこの時はタカ派のヒステリーが首脳部に伝染した。いや、それ以上に地球上空で好き勝手、という風に物理的に頭を抑えられていることに、多大なストレスを感じた結果なのか。

 とにかく各国はコンキリエに向けて核ミサイルを放ったのである。


 確かにそれは途中まではコンキリエに届きそうにはなった。

 核ミサイルであるので、所謂信管というものはない。コンキリエに近付いたところで爆発させればいいわけで、届きそうになったところで爆破指令を――


 だが、そのミサイルがいきなり停止してしまったのである。

 慣性をというものを全く無視して。それだけでも大概ではあるのだが、コンキリエはそうやって停止したミサイルをスペースデブリの様に回収してしまった。


 異星人の意図が全く見えない。

 いや、最大の破壊力を持つはずのミサイルをデブリごみ扱いしたとは認めたくなかっただけかもしれない。


 だがとにかく、ミサイル発射の目的は半ばまで達成された。

 あとは起爆させれば済む――話ではあるのだが、当然そんなことは起きず。


 ただ異常なのはミサイルからは確実に爆破指令を受信したという反応が返ってくるという事。それなのに核ミサイルを回収したコンキリエに何ら変化が現れなかったという事である。


 核爆発の威力がコンキリエにとっては大したものではなかったのか、あるいは核分裂を抑制できる魔法のような技術力を有しているのか。


 どちらにしても「打つ手がない」という結論には変わりがないのであるが。


 ――さらに、である。


 その後、コンキリエは回収した人工衛星を元の軌道に戻し始めたのである。

 公に発表されているものも、秘密のものも。それはまるで、


「あ、これダメだった? ごめんごめん」


 と、軽いノリで謝るように。

 もっと思い切った表現が許されるなら、子供のいたずらに対して大人が大人らしく対処するかのように。


 そしてコンキリエのそんな動きが、各国の心を折った。

 実際に対処のしようが無くなったと言い換えても良い。


 そういう状況が周知となったことで、改めて日本の――しげるを中心としたグループとエイリアンセントーAに注目が集まることになった。

 

 それはつまり「汎宇宙公明正大共存法」に縋るしかないということでもあった。

 セントーAが侵略ロボととりあえずは互角に戦ったという事にも、今となっては信じられない事を成し遂げたという評価になったのである。


 しかしセントーAはある血筋にしか反応しないと推測されている。

 その検証は各国で改めて進めるとしても、とにかく今は再戦に対する対策が急務であることは間違いない。


 それはわかっているのが……実際問題として何をすればいいのか。

 それに各国のプライドというものがある。


 結果、各国は静観という名の「日本にあれこれを投げっぱなし」を選択することになってしまった。

 少なくとも再戦までは、こういう状況になるだろう。


 ……そう。表面上は。

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