まだ外交交渉の範疇

 各国が動かないはずがない――とのしげるの予言には説得力があった。

 だからこそ、南もその予言には納得していたわけである。


 だが、予言は一部外れている部分があった。

 それは各国の動きの速さである。


 しげるは、なんだかんだ言っても素人であるから、侵略ロボが降下を開始した時に各国は異常に気付いたのだ、と考えていたがそれは間違い。


 侵略ロボが地球圏にそのままやってきたわけでは無い。

 侵略ロボを乗せた運搬機が地球圏にやってきたのである。当たり前と言えば当たり前の話だ。


 それに「教養」方面からのアプローチでも、異星からの侵略者という導入であれば、ほぼ確実にそういった母船が存在している。

 こういった母船の存在に考えが及ばなかったあたりは、確実にしげるの――セントーAの声を聞くことが出来る白衣の集団のミスと言えるだろう。


 ……母船の存在についてセントーAからのメッセージは無かったのか、それとも解釈違いであるのか。


 とにかく、色々な協定を無視する形で各国が設けていた地球圏を覆う警戒網に、その母船の存在はキャッチされていたのである。

 警戒すべき対象を地球の表面から深淵たる宇宙空間に向けることについては、いささか手間取りはしたものの。


 そしてその時、すでに各国の警戒網は異常を観測していたのだ。

 母船――古式ゆかしい名称にこだわるのなら未確認飛行物体Unidentified Flying Object、つまりはUFOは突然現れたのである。


 UFOは地球圏に瞬間移動したかのように突然出現した。

 幾らかでも理性的にその現象を文章化しようとしても、これが精一杯と言ったところになる。


 もちろんUFOは瞬間移動したわけではない。そんなことは物理が許さない。

 実はUFOは「光速以上の速度」で地球圏にやってきただけなのである。


 だがしかし、光速以上の速度は今の地球では観測できないし、観測出来たとしてもまず先に計器の異常に責任を被せて見ないふりをする。


 かつて欧州原子核研究機構――「CERN」が光速以上を観測しながら、それを計器の誤動作と処理したように。


 そんなUFOが観測可能になった瞬間、各国は光学的にその姿を捉えた。

 つまり肉眼で見ることが出来るようになったUFOをレンズ越しに確認したという事。


 UFOのフォルムはパスタの一種、「コンキリエ」によく似ていた。

 つまり貝殻に似ている。そういった形状の建造物が中央にあり、その周囲に繋がったままのウィンナーが取り巻くような形状だ。

 大きさはおよそ三百メートルと言ったところだろう。


 そして観測機が壊れていないと仮定した場合、このUFOは重力制御が可能で、慣性も以下同文であることも確実であるという結果が導き出された。

 こうなると、どこかの国が極秘裏に開発したとも思えない。


 それに、これだけ圧倒的に優位な状態になったのならば、公式では無くとも開発した国は各国に何らかの通達――一般には恫喝と言われる――をしないわけがない。

 で、あるならやはりUFOの正体は……。


 とまで思考が及んだ時に、各国は日本から発せられた警告を思い出した。

 侵略者が地球にやってくるという、荒唐無稽な警告を。陰謀論の中では、割とメジャーな警告であったこともあり、言ってしまえば各国は食傷気味だったのでる。


 その後、日本政府が何故かその主張に対して、全てを無視するような態度にならなかったことが不思議と言えば不思議ではあったのだ。だが使い勝手の悪い素材だけでは共同研究に乗り出すにしても見通しが悪すぎた。


 結局、日本は民間レベルでの共同研究を呼びかけることもせずに、ロボットについては一種の鎖国状態になっていたわけだ。


 しかし現在、UFOは確かに地球上空にある。

 こうなってしまえば、日本の主張を無下にも出来ない。いやそれどころか情報を提供させなければ――


 と、各国首脳部が思い立った瞬間。UFOが何かを降下させた。

 それは投棄したかのような勢いであり、その何かについても地球の常識に当てはまらない現象を引き起こしたことは間違いない。


 降下した何か、とは言うまでもなく侵略ロボである。

 そして日本が鎖国状態で組み立て続けていた、こちらも巨大ロボが迎撃に入った。


 いや迎撃と判断されたのは戦闘が終わってからであり、各国は当初。この戦闘に対して「何が起こっているのかわからない」という辺りが正直なところだった。

 その後、降下したロボットがUFOに引き返すに至って、各国はさらに混乱したことは言うまでもない。


 UFO、それに降下したロボットの性能は測ることすらできない高みにあり、侵略に対抗することも出来ないというのが一致した見解であった。それなのにロボットはさっさと引き上げてしまったのである。


 だからこそ各国は、


 ――「日本が単独で迎撃に成功したのか? それなら日本だけが迎撃できる技術を持っているのは世界の調和的によろしくない」


 と、日本に対して訴えかけてきた。

 それは正論が含まれていたわけだが、日本政府は開き直って「迎撃に成功したわけでは無い」と返答し、世界は知るのである。


 「汎宇宙公明正大共存法」の存在を。

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