危機は去らず
この段階で、いよいよ昭の疲労が本格的になってきたことが窺える。
何しろ、戦いたがりの昭がすっかり忘れていたのだから。
つまり時間制限で戦いは一旦停止になったという事は、当然再び侵略ロボとの戦いが再開されるのだろうという事を。
セントーAと侵略ロボの決闘はどう解釈しても「決着はついていない」状態であり、それは宇宙常識で考えてもそういった解釈になるようだ。
「そ、そうか! 場所は前と同じだな? 何時だ? 明日か?」
と、しげるに再戦があると言われた瞬間は燃え上がった昭であったが、この時間指定がなんとも難しい。
だがそれでも――
「少なくとも明日ではないぞ、我が息子よ。十日は多分間が空く。英気を養え」
「そ、そうか……向こうが嫌だって言うなら仕方ねぇか……」
と答えたところで、本格的に昭の電源が切れた。
それが比喩表現ではない可能性――さすがに電源ボタンはないらしいが――を目にして、南ようやく本命に辿り着いた。
座ったまま舟をこぎ始めた昭につられるように、南の瞼も重くなってきてはいるが、これだけは確認しなければならない。
「それで息子さんは改造されたと……」
「その通りだ」
南の確認を圧倒的に強い口調で肯定するしげる。
今までの流れで、そのまましげるの解説が始まると考えたのだろう。
南、それに篁も沈黙したままでしげるの言葉を待つ。
が、放送事故もかくや、と言うほどの時間が流れても、しげるはそれ以上、言葉を継ぎ足さない。説明をしない。
「――七津角さん?」
焦れた南がしげるを促す。すると、しげるはにやりと笑って、
「何でもかんでも私が説明すると思ったら大間違いだぞ、矢立組」
と、大上段に切り出した。
その瞬間、南の細い目が殺気を帯びる。ここまでかなり手間をかけてきたという自覚はある。それに報いが無いのでは――
「まぁ、待て。ここまでかなり目こぼししていたのはわかるだろう。言ってみれば我々はずっと前から親方日の丸であることは十分説明したはずだ」
「だから我慢しろと?」
「そういう意味合いもあるが、そちらに情報を渡さないのは、そちらを思ってのことでもある」
しげるは逆に恩を着せてきた。
南が欲しいものは、ずっと前から認識していたにも関わらず。
筋モノ相手にいい度胸だ、と南としては啖呵を切りたいところだったが、バックに国があるとなると確かに面倒な話になる。
それに――
「君は決闘の報道を確認したか?」
しげるが不意に南へと話を振った。そしてそれにいち早く答えたのは、南では無くて篁だった。
「あ、見たよ。蕎麦屋のテレビで。決闘の報道って、ああいうニュースの事だよね?」
と、あっけらかんと南に確認する篁。
それに毒気を抜かれたのか、南も戸惑いながら、
「え、ええ……」
と、何かを誤魔化すように同意する。
すると次にしげるは、
「それでタカちゃん。昭の事や、向こうの少年については何か伝えていたかい?」
「え? あ~あっと……多分無いんじゃないかな? ロボットについては大勢で沢山話してたけど。そもそも昭の事なんて見えないでしょ?」
「そう。今のところ伝えられているのはロボットについてだけだ。まぁ、その内パイロットの存在に気付くものも出てくるだろうが、とにかく今はロボットだ」
しげるはそんな風に断言する。そしてそのまま、
「――思い出してごらん、タカちゃん。あの時、タカちゃんは気づいては無かったけど、横の産土さんが驚いていただろう?」
「あ! そうだね、おっちゃん。ええと確か……重力と慣性――」
「そうだわ……」
気付きが連鎖した。
南もまた気付いたのだ。侵略ロボは圧倒的な技術力を見せつけながら地球にやってきた事を。
重力制御と慣性制御。
人類にとってはどこから手を付ければ良いのかわからない、未知すぎる技術。
何なら「魔法の産物です」と言ってのけた方が、納得しやすいのかもしれない技術なのだ。
それなのに侵略ロボは、そういった超絶的な技術をまざまざと見せつけた。
これは間違いなく――
「国が動くわ……全世界が動く。諜報戦になる……」
「そうだろう? 日本政府がどういう態度になるかはまだ結論は出ていないが、それは間違いないところだ。そして国が動くとなれば、当然裏社会も動き出すだろう。君のところはそれに対抗することになるだろうな」
そのしげるの予言を南は否定できない。
それから先に思考を進めると――
「――知らない方が良い、と? 少なくとも今は」
という結論に至る南。
諜報戦で最強のカードは「知らない」ことであることは、一面の真実だ。そして、しげるもその結論に大きく頷いた。
「そう。まさにそれだ。事態が落ち着くまで、しばし待った方が良い。君は運よく間近といったレベルで決闘を目撃し、パイロットの存在も知っている。何なら敵ロボッロの観測データぐらいは渡しても良い。だが改造についてはダメだ」
つまりそれほどの秘密が昭の身体にはある、という事になるわけだが……ここで昭を攫う事も難しい。確かに改造の結果、力に関しては常人離れしていることは間違いないし――
――侵略の危機に立ち向かえるのは、この昭しかいないのである。
今更ながら、その大前提に気付く南。
侵略されれば、秘密を知ったところで元も子もなくなってしまうのだ。
結局、南は妥協した。
さらに細々した質問と、これからのことについて打ち合わせをしたところで。
何より、問題になったのは「もう起きていられない」というレベルで疲弊度合いが限界だったという事だった。
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