解釈違い
「そ、それでどうなりましたか?」
と、南が生唾を飲み込みながら、先を促した。
しげるはそれに対して無表情で答える。
「全く相手にされなかった」
と。
それは肩透かしであり、同時に「残念ながら当然」という感情も去来する顛末だった。それでも南は抵抗を試みる。
「ですが、実際にロボットのパーツがあるわけですよね? それに遺跡という事なら学術的な価値も……」
「まず学術的な問題だが、掘り出された場所から移動させていたので、この段階で学術的な価値が目減りしてしまったらしい。そしてパーツと言っても、連絡した段階では左腕があるばかり。しかも素材は全くの謎。これでは技術力的にも発展させようが無いし、実のところそれほど硬くはない」
南の抵抗に対して、しげるが自らの試みが失敗した理由を並べ立ててゆく。
その、あまりのスムーズさからは、そうやって自らを慰めていたことが窺えた。
「硬くないのか? そういう感じじゃあなかったけどな」
搭乗者の昭が、首を傾げながらしげるの説明に異を唱えた。
実際に侵略ロボと殴り合いをしているのである。搭乗者に何らかのフィードバックがあるシステムが実装されている場合、その証言は軽くは扱えない。
それに対してしげるは、どこか悲し気な表情を浮かべた。
「そこだ。セントーAは謂わば現行の科学の定義とは真逆の設計思想で作られている。それが各国に価値が無いと判断された原因でもある」
「おっちゃん、何言ってるのかわからない」
篁がすぐさま、ドーナツからクリームを溢れさせながら突っ込んだ。
だがそれは、しげるを反省に導くことにはならず、全く逆の結果を導くことになった。
「現行の科学では、最も重要なことは『同じ現象を起こせる』という点なわけだ。所謂再現性というものだな。つまり、誰がロボットに乗っても同じ性能を発揮できる。これが大事なことだという前提がまずあるわけだ。現行の兵器を考えてごらん。個々の技量の差はあっても、誰が引き金を引いても弾が出る。攻撃が出来る」
例え話が物騒すぎるわけだが、しげるの言う事は間違っているわけでは無い。
作り方さえ解明できれば、同じものを作れるというのは言うまでもなく非常に重要な現象だ。
今の地球を支える根本と言っても良い。
それを感覚的に悟った篁は、さらに話を続けようとした。
例え話が物騒であるのは七津角家と付き合っていれば、もう慣れたものなので意にも介してないようだ。
「えっと……今の話の逆なんだから~~……ロボットは乗る人が決まってるわけだ」
ただし「セントーA」という単語を口にすることは意に介するらしい。
「そう。セントーAは乗れる人が決まっている。誰が乗っても同じ性能を発揮するわけでは無い」
そして、しげるは篁の言葉を肯定した。
それは「教養」の持ち主であれば、かなり馴染みやすい現象でもある。
さらに、いままでのしげるの説明を拾い上げていくと――
「七津角さんは、何回も“我々”と口にしていた……という事はセントーAの声を聞いていたのは七津角さんだけでは無いんですね? 恐らくそれが搭乗資格を持っている、という事なのでしょう。そしてその資格は血筋によってきめられているのでは?」
――と、南は推測を並べた。
それに対して、しげるは大きく破顔する。
「まさにまさに。我々の今の推測と同じだ。どうやら日本人の中に現れるようでな。パーツが掘り起こされるたびに、声を聞く者が多くなっていったわけだ。各国が無視を決め込んだ中で日本政府だけが協力していたのは、それも理由の一つだ」
「他に理由が?」
「実際に、パーツが動く現象を観測させた。画策したわけでは無いがタイミング的に各国が無視を決め込んだ後にそうなってしまった。そうなると独占を試みたくなるのも人情――いや技術で立国している現状では優位性を確保したいと考えるのも、日本の自然な政略と言えるだろう」
南は朝方までは、その秘密を知ろうとしていたわけで、政府にそういう動きがあったことは今更説明されるまでもない。
南はそれで納得したわけだが――
「でもよ。親父が朝に言ってたじゃねえか。そんなことなんか意味がなくなるって……地球が侵略されるんだぜ? 話がおかしくねぇか?」
突如、昭が穿ったことを口にした。
そしてそれは正論と呼ばれるものだった。
しげるは昭の問いかけに苦笑を浮かべた。
「協力するという方針は一致しても、それで一枚岩になるわけでは無い。セントーAからのメッセージに侵略についての事が増え、それを真剣に検討するグループもあったわけだ。そのグループはドゴン族とコンタクトを持とうともしたんだが――」
「ドゴン族?」
当たり前に篁が首をかしげると、しげるは我が意を得たりとばかりに、舌を振るい始めた。
「西アフリカ、マリ共和国に住まうドゴン族は宇宙と並々ならぬ関係がある。そこで我々と政府の関係者がセントーAのメッセージについての意見を尋ねてみた」
「どうなりましたか?」
南が、勢い込んでしげるに詰め寄る。
ドゴン族については知っていたらしい。だが、しげるの表情は晴れない。
「何しろ、ドゴン語という言語は少々特殊らしくてな。日本語に訳すときに、何か大きな間違いが含まれてしまった可能性もあるんだが……ドゴン族の意見を訳してみると――」
「みると?」
「解釈違い。そんな風な意見が返ってきたらしい」
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