声が聞こえる

「そうだな。確かに、そこから始めた方が良いかもしれない。根本になる『汎宇宙公明正大共存法』についても説明しやすい」


 と、しげるは始めた。

 最初に南から、


 ――「どうしてそんなに宇宙の事情まで含めて知っていたのか?」


 と、かなり大雑把に質問されたことによって、しげるもそれがベストだろうと判断したようだ。

 白衣姿で、六畳間にどっかと腰を下ろしている姿は、やはり胡散臭いのだが。


 ちなみに昭と篁は奥の四畳半の部屋にちゃぶ台を近付けて、かなりの部外者ムーブを見せつけている。

 南は、逃がすものか、とばかりに玄関を背負って綺麗な正座姿を見せつけていた。


 そして全員が全員、この日の名残りを示すかのように薄汚れている。

 昭と篁はこの後、24時間営業の健康センターに行くのはほぼ確定と言ってもいいだろう。路傍文化に風呂はついていないのである。


 南がしげるの説明を聞いた後も親切心を発揮するかどうかは確定では無いし、そのしげるは何処まで時間があるのかはわからない。

 最後には結局、息子からカツアゲを食らう事もまた確定と考えても良いだろう。


「最初は……そうだな。突然声が聞こえてきた」


 何しろ、しげるの説明は長くなりそうな気配しかしない導入はじまりなのであるから。

 その説明を聞いて「発言者は異常者だ!」と断言できない。それを「異常」と判断できない方が、人類社会においては害悪と言っても良い。


 だが、ここに「巨大ロボット」という要素を加えると、様子が違ってくるのもまた日本ならではと言えるだろう。

 何しろ南は、


「それは……やっぱりライディーンみたいな感じですか?」


 と、確認したのだから。

 そして、しげるも勢いよく頷く。


「そうだな。『ライディーンが待つ』か……感触的には『ゴッドマジンガー』を思い出していたが、今となっては『ライディーン』の方が近いのだろう。あの足でもあるい」

「よぉ」


 昭が割り箸を掲げながら割り込んできた。


「ロボットって、なんかもっと機械機械してるもんじゃないのか? 中に入ってもそこまで機械っぽくは……妙なコードはあったんだけどよ」


 それもまた、南にとっては押さえておきたい情報だ。

 だがしかし尋問する事と相手が倍増した事になるわけで、一瞬頭の中が散らかってしまっても無理は無いだろう。


 その隙に、しげるは重々しく昭の問いに答える。


「ライディーンは画期的な部分がある作品でもある。左右非対称のデザイン。納得できる変形機構。そしてロボットに生体的な要素を取り込んだ意欲作でもあったわけだ。月の光によって石像になってしまうという魔法オカルトを思わせる展開もあった。あれがちゃんと説明される機会があれば……とは思う」


「説明なかったのかよ」


「ああ。放映当時ユリ・ゲラーという超能力者がブームになっていてな。それなのにごく短いスパンで超能力否定派が勢いを増した。そうなるとスポンサーが『ライディーン』に超能力や魔法といったオカルト的な要素があることを嫌がったんだ。そこでライディーンは路線変更となりより機械に近付いてしまった。月の光についての謎は無くなってしまったんだ。明日香麗と共にな……」


 言うまでもなく暴走している。

 そして、それを止めるべき南もしげるの話に耳を傾けすぎてしまっていた。


 だが、この部屋にはまだモッチリングを引きちぎっている篁が残っている。

 篁は空気を読んだのか、もしくは本当に関心がないのだろう。


「おっちゃん。声が聞こえる、から話が進んでない」


 と、バッサリ切って捨てた。

 しかしそれは他のメンツに対しても救いであったことは間違いない。特に南にとっては居住まいを正すまでの影響を及ぼし、


「ええと……話の流れから察するに聞こえてきた声を発信していたのはあのロボットなんですね。宇宙からのメッセージというわけでは無く」


 そんな風に積極的にしげるに確認した。

 「汎宇宙公明正大共存法」はその名の通り「宇宙」に大元があるらしいので、南が「宇宙からのメッセージ」説を考慮に入れたのは、ある意味では妥当なところだろう。


 しげるは「宇宙からのメッセージ 銀河大戦」という特撮番組を確実に思い出していたに違いないが、それは自重することが出来たようだ。

 これ以上わき道にそれる時間的余裕が無いのかもしれない。


「うむ。その辺りは確実だ。我々は地中に埋まっていた『エイリアンセントーA』のパーツに導かれて、掘り出すことが出来たのだからな」

「あ……その名称も七津角さんが?」

「いや、これはセントーAが自ら名乗ったのだ。我々も情報提供などを手伝ったが、あの名を選んだのは間違いなく『エイリアンセントーA』だ」


 これで絶句しないというのは無理という話だ。

 しかも、わき道にもそれているわけでは無い。


 真っ直ぐに話を進めても、こういう落とし穴に引っかかったような目に遭ってしまう。巨大ロボを中心とすることの危険性がここにあった。

 

「……では……セントーAと会話ができるわけですね」


 それでも確かに前進はしている。

 南は奥歯を嚙み潰すように確認した。


 だからこそ、しげるもそれに頷き、


「うむ。まず左腕が掘り出さられ、それによってメッセージについてもある程度は鮮明に聞こえる箇所も増えた。そこで我々は、全世界にこのことを通達した」


 と、さらなる爆弾発言を繰り返した。

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